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SLQ-59の備忘録

 今回はSEWIP Block 3Tとして開発されたAN/SLQ-59 TEWM (Tranportable EW Module)について備忘録的に軽く残しておきます。この装置は週刊安全保障(Twitterで"#週刊安全保障"で検索)という番組で取り上げられ(て少なくとも数名を電子戦沼へ誘っ)たほか、私以前に既に多くの方が早くからこの電子戦装置について調査議論されているのでそちらを参照することをお勧めします。

 

 

 

 

 以前の更新でも触れたように、AN/SLQ-59は米第7艦隊の緊急作戦要求UON (Urgent Operational Need)に応じて開発配備されたものだった。SLQ-32は海上電子戦改善プログラムSEWIPでブロック管理されて新技術の導入が行われており、このうちSEWIP Block 3Tは、急速な脅威増大ペースに対処するためにBlock 3配備前に暫定的に一部機能の提供を行うことを目的としたものだった。

 

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RDT&E予算資料から、SEWIP Block 3T TEWM開発試験線表を作成。

orca-oruka.hatenablog.com

 

 SLQ-59は予算資料で確認した限りはFY 2017までに合計15セットの調達がなされているようだ。実際に、モジュール部がこの数を越えて同時に艦に搭載されているタイミングは確認できなかった。この数は当初の計画数として知られるそれよりも少ない。

 SLQ-59はミサイル駆逐艦、ミサイル巡洋艦、空母のうち横須賀配備艦を中心に装備している。私の把握している限り、各艦のおおまかな装備時期を次の表に示す。ただし赤字の艦はモジュール部を撤去した艦である。

 

      SLQ-59搭載年
DDG 52 Barry 2018
  54 Curtis Wilbur 2017
  56 John S. McCain 2016
  62 Fitzgerald 2016
  63 Stethem 2021
  65 Benfold 2017
  69 Milius 2015-2017
  70 Hopper 2021
  73 Decatur 2021
  83 Howard 2018-2019
  85 McCampbell 2017
  89 Mustin 2016
  111 Spruance 2018
       
CG 54 Antietam 2016
  62 Chancellorsville 2016-2017
  67 Shiloh 2018
       
CVN 74 John C. Stennis 2017
  76 Ronald Reagan 2014-2015

 

 USS Fitzgerald (DDG 62)は日本近海における衝突事故の後、重量物運搬船に乗せられて本国へ輸送され、修理改修を受けた。修理後の最初の海上公試ではこのマウントも付けていなかったが、母港となるサンディエゴへ向けて出港した際には付けていた。USS Stethem (DDG 63)は以前横須賀に配備されていたときはSLQ-59を装備しなかったが、本国に帰ってUSS Decatur (DDG 73)とドックを共にして改修を受け、この2隻はブリッジウイング横にマウントと思われる構造が新しく追加された。

 

[追記: 2021. 10. 02]

 のちにUSS Fitzgerald (DDG 62)は空中線部を再び装備した。USS Stethem (DDG 63)およびUSS Decatur (DDG 73)も空中線部を新しく装備し、搭載艦数は16隻に上る。海軍Other Procurementで調達されたSLQ-59は15基であり、現在確認できている限りではこれを上回ることになる。ただし、試作品の有無およびその扱いや最近日本への前方展開を終えて本国へ帰還し改修を控えている艦のモジュールの行方は不透明であり、新しく横須賀へ配備された艦の改修状況と併せて継続した調査が必要である。例えば2020年に横須賀を離れたUSS McCampbell (DDG 85)は2021年現在工事中であり、取り外されて別の艦へ供されている可能性はある。

 

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USS Fitzgerald (DDG 62), SLQ-59マウント? (米海軍)

 

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USS Mustin (DDG 89), SLQ-59上部 (米海軍)

 

[追記: 2022. 05. 31]

 2021年3月頃、パールハーバーを母港とするUSS Hopper (DDG 70)への搭載を見逃していたので更新。

 ちなみにUSS McCampbellは改修を終え、SLQ-59は引き続き装備していることが確認できた。現在17隻への搭載が確認されており、確認できた調達数と噛み合わないため調査が必要。

 追記は以上

 

 ではSLQ-59は何をするための装置なのか。木村初夫 氏は月刊JADI 2016年7月号の「A2/AD環境におけるサイバー電磁戦の最新動向(後編)」にて、第7艦隊のUONは中国のYJ-12、YJ-18といったASCM等への対処のためのものであり、開発されたSLQ-59はミリ波アクティブレーダーへの妨害を行うものだと記されている。同様に米第6艦隊UONによって開発されたSLQ-62はより広範なミサイルシーカーへの電子攻撃を目的としたものと思われることと照らし合わせても、中国の対艦ミサイルへの対応策というのは可能性は高そうに思える。

 また、General Dynamics NASSCOのThe Shipbuilder誌Vol. 55 Issue 5にて、USS Ronald Reagan (CVN 76)へ搭載されたSLQ-59について"targeting radar receiver platform"と表現している。私自身が直接確認したわけではないので恐縮だが、Jane'sはSLQ-59についてESM/ECM両方の機能がある旨記載していると伺っている。

 

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SLQ-59のモジュールを視察するCNO (米海軍)

 

 上に示した写真はSLQ-59をCNOが視察する様子を写したものである。右のポスターにはアーレイ・バーク級DDGとタイコンデロガ級CGへの検討段階の搭載方法が示されている。このモジュールの取り付け方法はCVNもしくはCGへの設置手法に似ており、私が把握している限り最初の実運用搭載例であり、この写真の撮影後1年ほどで搭載されるUSS Ronald Reagan (CVN 76)への搭載法とも似ている点は興味深い。

 少し横道に逸れたが、この写真のモジュールにはおそらくアンテナアレイと思われる四角形の構造が1面につき2つあることがわかる。送信用と受信用が分かれているのか、送受信は共用として周波数帯を分けているのか不詳だが、この2つのサイズが同じように見えることにも注目したい。

 

 

以上、随時加筆修正を行う。

2021/9/27追記

2022/5/31追記