USS Abraham Lincoln (CVN 72)は周知の通り米国西海岸のサンディエゴを母港とする、ニミッツ級原子力空母の一隻です。今回はこの艦について、私がしばらくの間気になっていたことについて書いておこうと思います。ただ、この内容は推測を多く含んでいることを注意として事前にお伝えしておきます。
私が最初に呟いたのは2022年の12月、ブログに書くまでにしばらく経ってしまいました。今回の話題はこの平面アンテナです。スクリーンショットの写真2枚目で分かるように、USS Abraham Lincolnはマストによく似た平面アンテナを4面×3組の12枚も持っています。これは他の空母では見られない装備品です。
米空母のマストに装備する4面固定式の平面アンテナと言えば、CEC (Cooperative Engagement Capability)の通信に用いるPAAA (Planar Array Antenna Assembly)かUSS Gerald R. Ford (CVN 78)に搭載されるSLQ-32(V)6のESアンテナくらいでしょうか。写真のアンテナはこれらとは違って見えます。
USS Abraham Lincolnが装備しているPAAAを除く4面2組のアンテナは、おそらくNTCDL (Network Tactical Common Data Link)のアンテナであろうと私は今のところ推測しています。ただし、同艦に搭載された明確な証拠が見つからず、NTCDLの新型アンテナの外観についての詳細な情報も持っていないので確信するには至っていません。
NTCDLはPMW/A 170が進めるプログラムでBAE Systemsによって開発された、従来のCDLファミリーに後方互換性を有する新型の共通データリンクシステムです。NTCDLはフェーズドアレイアンテナの採用により、同時に複数のユニットとのリアルタイムデータリンクが可能になるとされています。このような機能は、F-35CやMQ-25のような無人機の運用に不可欠なものになるでしょう。従来のCDLの艦上アンテナはパラボラアンテナを使用しており、同時に通信可能なユニットはアンテナ一つにつき一つだけと思われます。
https://www.baesystems.com/en-us/product/network-tactical-common-data-link
NTCDLアンテナの外観については、公開情報を調べている限りではPMW/A-170プログラムマネージャーのスライド (https://www.ndia-sd.org/wp-content/uploads/2017/02/3.PMW-A%20170_NDIA%20Fall%20Forum%202016%20Brief_OCT16.pdf) にポンチ絵があるだけのようです。これを見る限りは、パラボラアンテナまたは/およびフェーズドアレイアンテナの指向性通信と無指向性アンテナを使用するようです。
USS Abraham Lincolnへの搭載の時系列について確認すると、これらの平面アンテナは2020-2021年頃に搭載され、この段階では従来のCDL用パラボラアンテナは搭載されたままでした。2022年の太平洋展開の後、これらは撤去されて新しい平面アンテナだけになったようです。
USS Abraham Lincoln搭載機で4面1組ではなく2組になっているのは、おそらく送信アレイと受信アレイが分割されているから(、もしくは広帯域の使用のために周波数帯別に2組を使用しているから)でしょう。RFI時の契約とQ&A (N00039-14-R-0001) を見ると、添付資料にはアクセスできませんが4面2組を想定していた様子が伺えます。
こういったデータリンク装置で思い出すのが、AMRFCやInTop EW/IO/Comm ADMの存在です。AMRFCでは通信を含めた多機能フェーズドアレイの研究を行い、送信アレイおよび受信アレイを分割した構成でCDL/TCDLを含む複数の機能の同時使用を実証しました。NTCDLでは5ユニット以上との同時通信が謳われており、このような能力は不可欠です。SEWIPも含めて、このような形で20年を超える開発史を眺められることには (関係のない外部のものとしては) ロマンを感じずにはいられません。
NTCDLはコンステレーション級フリゲートも"Variant B"と呼ばれるタイプを搭載することになっており、今後は他の空母等への搭載と並んで注目したいところです。以上、NTCDL (かもしれない)アンテナの話でした。