DDG(X)コンセプトデザイン(案)がおもしろい
さて、SNA 2022で米海軍の次期ミサイル駆逐艦DDG(X)計画のコンセプトデザインのひとつの案としてスライド[1]で示された絵があります。ここではこの絵で私が気になったところを備忘録的に残そうというもので、つまりは穿った見方をするものなので特段意味のあるものではないことは事前にご留意ください。
レーダー・EOセンサー・EW
主となる多目的レーダーはAN/SPY-6(V)1としています。SPY-6はRMA (Radar Modular Assembly)と呼ばれるモジュールの個数を変更することで求める規模のレーダーシステムを構築でき、(V)1はRMAを37個並べたものですが将来的に57個に増やす選択肢が書かれています。
SPY-6のアレイはブリッジの上に設置されており、これは従来のSPY-1では米海軍艦としては見られなかった配置です。ただしSPY-3を装備するズムウォルト級ではブリッジの上にレーダーアレイを配置しており、PESAであるSPY-1に対してAESAであるSPY-3/6では軽量化により、高い位置への設置が可能になった可能性があります。また、SPY-6(V)1にROCR (Receive Only Cooperative Radar)というモードの開発契約が既に結ばれているのも興味深いです[2]。
SPY-6はSバンドですが、XバンドレーダーとしてはSPQ-9Bが用いられ、将来的にはFXRが用いられる計画のようです。この立ち位置についてはそもそもAMDRの開発を辿ることが望ましく、AMDRは当初SバンドのAMDR-SとXバンドのAMDR-Xを開発する計画でしたが、AMDR-Xはキャンセルされ「(新規開発でなく)利用可能なXバンドレーダー(availlable X band radar)」を用いるように変更されました。そしてその枠にはSPQ-9Bを充て、残ったAMDR-SがSPY-6が開発されました。SPQ-9Bは現在米海軍でCG、DDGを含めて搭載艦を増やしつつあります。
FXRはSPQ-9Bの代替として、SPQ-9Bの対水上捜索、水平線捜索、潜望鏡探知・識別機能に加えて専任追尾(dedicated tracking)、ミサイル通信、先進的なEPを含む新規機能を持たせるものとされています[3]。ところがDDG(X)搭載分はミサイル通信機能はオミットされるものとしています[1]。これはミサイルの誘導はSPY-6による指令誘導とSPG-62による終末誘導で十分とみなされているのでしょうか。
ここでSPG-62について興味深いのが、前1基+後2基の配置はバーク級に準じるものですが、DDG(X)では後部の2基が横並びになっているようにも見えることです。判然としませんが。
また、マスト前の円盤状の物体はAN/SPS-73(V)18 NGSSR (Next Generation Surface Search Radar)でしょう。さらにその上にあるのはMk 20 Mod 1 EOSSか、それともAN/SAY-3 iStalkerでしょうか。これらはコンステレーション級FFG /FFG(X)のモデルにも見られるものです。
電子戦装置はSEWIP Block 3を適用したAN/SLQ-32(V)7を搭載することがモデルから見て取れます。
指向性エネルギー兵器
指向性エネルギー兵器としては艦前部に150 kWレーザーを1基、将来的に後部の2基のRAM発射機(Mk 49)を600 kWレーザーで代替する計画のようです。前部のレーザーは横須賀配備のUSS Deweyに搭載されていることで有名なODINにも似ていますが、ODINは30 kWとされていますのでより出力の高いものを示しています。現在USS Preble (DDG 88)へ搭載作業中のHELIOSは出力が上がって60 kW、一方でASCM対処を謳うHELCAPは300 kWとされており、150 kWレーザーのミサイルに対する破壊効果は限定的なものでしょう(とはいえ、おそらく小型艇への対処や接近するUASの破壊などに十分なところかと)。一方で600 kWレーザーはRAMの代替としていることからもわかるように、ASCM対処を想定したものといえそうです。
北大西洋への意識
北極海への意識は米海軍が継続して示してきているところで最近も衰えることなく、むしろ発信に注力している分野です。ロシアを念頭に、スペイン・ロタにDDGを4隻FDNF-E (Forward Deployed Naval Forces Europe)として前方展開しています。現在はUSS Arleigh Burke (DDG 51), USS Ross (DDG 71), USS Porter (DDG 78), USS Roosevelt (DDG 80)の4隻が配備されており、去る4月27日、FDNF-Eに加わるためUSS Paul Ignatius (DDG 117)がメイポートを出港しました[4]。いずもロシアの対艦ミサイルを警戒して特別の電子戦装置を搭載しているようですがそれはまた別の話...(といいつつ過去記事の宣伝)
また、大西洋における即応海上部隊として機能するTask Groupe Greyhoundが昨年9月に立ち上げられており、USS Arleigh Burkeの配備によって交代で本土に帰ったUSS Donald Cook (DDG 75)はUSS Thomas Hudner (DDG 116)と共に設立時の構成艦になっています[5]。TG Greyhoundはロシアの潜水艦の脅威を重視しているものとされ[6]、米海軍は他にも氷海域の海中センシングに関する研究を継続して行っていたり、太平洋側ではSeaGuardianが対潜戦の研究を進める中でMQ-9の高緯度地域の飛行をアピール(これはGA-ASI)したり、深海域での探知に注目したDeployable Surveillance Systemsの研究とロシアの潜水艦を重大な脅威とみなしています。
その中で北海沿岸国への寄港も行いながらノルウェー海等へのDDGの展開を続けており、DDG(X)で期待される航続性の向上は展開の柔軟性の向上を期待したものでしょう。
気持ち悪く眺めていましたが興味深い点が多く、他のモデルも見てみたいものです。
参考資料
[1] David Hart, SNA 2022 presentation slide, DDG Program (https://www.navsea.navy.mil/Portals/103/Documents/Exhibits/SNA2022/SNA2022-CAPTDavidHart-DDGX-Program.pdf), 2022/02/28
[2] DOD Contracts For May 26, 2020 (https://www.defense.gov/News/Contracts/contract/article/2197963/)
[3] Special Notice N00014-17-SN-0006 for Office of Naval Research, Future X-Band Radar (FXR) Industry Day Draft
[4] USS Paul Ignatius Departs Mayport for Inaugural Patrol, Homeport Shift, US Navy, Apr. 28, 2022 (https://www.navy.mil/Press-Office/News-Stories/Article/3012978/uss-paul-ignatius-departs-mayport-for-inaugural-patrol-homeport-shift/)
[5] SURFLANT STANDS UP TASK GROUP GREYHOUND, SURFLANT, US Navy, Sep. 28, 2021 (https://www.surflant.usff.navy.mil/Press-Room/News-Stories/Article/2791794/surflant-stands-up-task-group-greyhound/)
[6] New US Navy task group taps destroyers to focus on countering Russian undersea threat, NavyTimes, Sep. 28, 2021 (https://www.navytimes.com/news/your-navy/2021/09/27/new-us-navy-task-group-taps-destroyers-to-focus-on-countering-russian-undersea-threat/)