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ODINと米海軍のレーザー兵器開発

 今回は前2回とは少し趣向を変えて米海軍のレーザー技術開発について軽く紹介する。

 

 レーザー技術は軍事においても近年急速に実用化の幅を広げ、たとえば慣性航法装置のレーザージャイロや誘導爆弾等で用いるレーザー照準誘導などだけでなく、出力を高めてレーザーのエネルギー自体によってターゲットの活動を妨害する、あるいは破壊するといった指向性エネルギー兵器としての活用の研究が各国で進められ、それぞれで実用化配備に近づいている。

 

AN/SEQ-4 ODIN

 米海軍ではAN/SEQ-4 ODIN: Optical Dazzling Interdictor, Navyというレーザー兵器を開発しアーレイ・バークミサイル駆逐艦に搭載しつつある。現在、USS Dewey (DDG 105)、USS Stockdale (DDG 106)、USS Spruance (DDG 111)の3隻への搭載が確認できている。これらはフライトIIA艦途中から装備されなくなった艦橋前ファランクスの空きスペースに設置されている。

 

追記: 2021/4/1

 11月に入って、USS Sterett (DDG 104)とUSS John Finn (DDG 113)がODINを搭載していることが写真で確認できた。これで搭載艦は5隻になる。また、USS Dewey (DDG 105)は横須賀へ前方配備となった。

 

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ODIN正面 (VIRIN: 210220-N-QH460-1001)

 

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ODIN側面 (VIRIN: 210220-N-QH460-1001)

 最初期にODIN搭載を確認し、ニュースにしたのはThe War ZoneのTyler Rogoway氏の記事"Mysterious Laser Turret Appears On US Navy Destroyer USS Dewey"だろうか。記事中ではODINの可能性が高い、と慎重な表現をしているものの、実際それは正しく、例えば米海軍水上戦センターNSWC: Naval Surface Wafare Centerの関連する業務を示した資料にDDG 106およびDDG 111へのODINの搭載が記載されていることなどから裏が取れる。余談として先般のThe War ZoneのSLQ-62記事も同氏の執筆であり、アンテナの感度の高さは目を見張るところです。

 

 ODINは米海軍のNLFoS: Navy Laser Family of Systemsという艦載レーザー兵器群およびより広範な段階的な艦載レーザー兵器開発計画に基づき、その一環として開発されている。この計画では複数のレーザー兵器がそれぞれの開発で得られた要素技術や知見を共有しつつ効率的に出力の向上と能力の拡大を目指すことになる。

 

 ODINについては米海軍FY 2021 RDT&E予算資料(PDF)に記載がある。ここではODINは緊急作戦要求UONに対応するため開発されたことが記されている。ODINは指向性エネルギーによって無人機等によるISR(情報・監視・偵察)活動へ対抗する(C-ISR)能力を短期間に獲得するために開発された。ODINの出力は未詳であるが、後述するHELIOSの出力から推測しておおよそ≲60 kWと予想される。

 

追記: 2021/11/27

 米下院軍事委員会のレポート(H. Rept. 117-118 - NATIONAL DEFENSE AUTHORIZATION ACT FOR FISCAL YEAR 2022, 117th Congress (2021-2022))で、ODINの出力は30 kWとして記述されていたことが分かった。これはUSS Ponce (AFSB(I)-15)に搭載して試験を行っていたAN/SEQ-3 LaWSと同等である。

 

 ODINはアーレイ・バーク級フライトIIA向けとして開発されており、実際に搭載が確認できた3隻はいずれもフライトIIAである。FY 2020までに1基目から3基目までの艦船搭載が完了しており、4、5基目の搭載がFY 2021で計上されている。1-3基目が上記3隻に相当するのだろう。現在ODINは8基目まで調達が計画されており、順次搭載されていくことになる。akaumigame (Twitter@acaumigame) 氏のご厚意で同氏が記録している配備基地の一覧を確認させていただくと、現在搭載している艦はいずれもサンディエゴ配備である。実際にどうなるのかは私には未詳だが、もし今後もサンディエゴ配備のフライトIIA艦、そのうちCIWSが1基のみの艦に集中して装備されるならば、候補はUSS Shoup (DDG 86)、USS Pinckney (DDG 91)、USS Sterett (DDG 104)、USS John Finn (DDG 113)が挙げられる。

 

追記: 2021/11/27

 前述の通り、USS Sterett (DDG 104)とUSS John Finn (DDG 113)にもODIN (4, 5号機と思われる)が搭載されたことが確認できた。

 

追記: 2022/8/15

 USS Kidd (DDG 100)への搭載が確認できた。

 

他のレーザー兵器システム

 前述の通りODINはNLFoS、そして他のレーザー兵器開発と深く関係しており、これらを比較することなしにはODINの特徴、立ち位置はうまく見えてこない。NLFoSはODINの他にHELIOSRHELSSL-TMと呼ばれるレーザー兵器(プログラム)からなる。

 

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米海軍の艦載レーザー兵器開発計画(CRSレポート)

 

 HELIOSはODIN同様にアーレイ・バーク級フライトIIAへの搭載を前提としたレーザー兵器で、無人機の幻惑および破壊、高速艇(FIAC)の撃破によってC-ISR能力を持ち、対水上戦へ寄与することを目的としている。HELIOSはイージス戦闘システムへ統合される。HELIOSSurface Navy Laser Weapon System (SNLWS) increment 1として開発され、出力は最大60 kWとされている。これは小型無人機の破壊や電子光学センサの幻惑・破壊を目的としたものと考えられる。

 

追記: 2021/11/27

 USS Preble (DDG 88)はサンディエゴのBAE Systemsで行われていたHELIOSの搭載を含む改修作業を終え、6月中にサンディエゴ海軍基地に移った。これがHELIOSのDDGへの初搭載例となり、Facebookには早速写真が投稿されている。(

https://www.facebook.com/usspreble/posts/pfbid0Aff69qkGeNjgKyGRXdSPGJguCU6CUs4yFWQP7JkdR3McLAmP39AiVLAbBSSBmqwNl

)

 

 SSL-TMでは2020年5月にはUSS Portland (LPD 27)に実証機を搭載し実際に無人機を撃墜する実験を行った(USNI News)。SSL-TMではLaser Weapon System Demonstrator (LWSD)の開発を行い、この出力は最大150 kWに及ぶ。このため電力需要も相当なものになり、Energy Storage Module (ESM)が開発された(PMS 320)。これは600 kWで10分間、100 kWh (360 MJ)の供給を可能にする鉛蓄電池を用いた給電システムである。少し余談として、米海軍はレーダー、電子攻撃、指向性エネルギー兵器、レールガン等の艦船への搭載と電力需要の大幅な拡大、その変動の大きさといった問題を見越してこの種の大型蓄電池を用いた電力管理システムの研究を進めている。

 

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PMS 320が研究する蓄電/給電システム

 

 他は省略するが、これらの成果を結集するのがHELCAP: High Energy Laser Counter-ASCM Programである。HELCAPはRHELのあたらしいレーザー光源、SSL-TMの高出力レーザーに関する技術、HELIOSの戦闘システムへの統合技術と複数艦艇が存在する環境における運用経験、そしてODINのC-ISR技術と実運用経験を結集して開発される。HELCAPの出力は最大300 kW程度にも達するとされ、プロジェクト名通り、限定的ながら対艦ミサイル防御に用いることのできるレベルを目指している。これ以前のごく低価格の無人機対処等、比較的低出力での費用対効果の観点を重視していたシステムとはこの点で大きな違いがある。

 

 また、ODINをはじめとする他のレーザー兵器からHELCAPへの技術の活用を象徴するものとして、2020年11月に米海軍作戦部長がDahlgrenでODINからHELCAPへの技術移転について、ODINの前でポスターで説明を受けている様子のリリースがあった(VIRIN: 201117-N-DI587-1151)。

 

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説明を受けているCNO

 

米海軍レーザーシステムの(当面)目指すところ

 ここまで米海軍の主な艦載レーザーシステム開発について見てきたが、ではこれだけ様々なシステムを開発している目的は何で、どこを目指しているのだろうか。ポンチ絵もさまざまあるが、ここでは2018年の当時NSWC技術ディレクターの方のスライド資料を引用する。

 

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レーザー兵器等運用概念図

 

 この中でレーザー兵器は赤線および緑線で描かれており、それぞれ破壊・不可逆的な無力化と可逆的な妨害を示している。図からはDDGに搭載されるものは低高度低速飛行型の小型UAVの破壊、中-高高度UAVのセンサーを妨害し、LPD搭載レーザーでは高速艇への攻撃に加えて横行ASCMの迎撃を行っている。これは主として想定されている環境の違いに加えて、出力の違いを示している。

 

 米海軍では他に、フリーダム級沿海域戦闘艦USS Little Rock (LCS 9)へのレーザー兵器搭載計画が報道されている(USNI News)。また、2019年1月のSNAシンポジウムのプレゼンテーション(スライド)によるとコンステレーションフリゲート/FFG(X)への150 kW級レーザーの将来的な搭載も検討されてはいるようである。

 

 米海軍ではC-ISR用途などに60-100 kW、横行ASCM迎撃に300-500 kW、完全なASCM迎撃能力およびASBM迎撃能力の獲得には1 MW以上が必要であるとされている(CRSレポート)。この指標からもHELCAPでようやく実用的な横行ASCM対処能力の獲得に相当すると思われる。

 

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レーザー出力と想定ターゲットの例

 

  これらからもわかるように、今現在直ちに運用できる段階のものは艦艇のASCM防御に十分に活用できるものとはいえず、今後の技術開発にかかっていると言える。NSWCに勤務し、レーザー兵器の専門家であるPeterkin博士はミサイルは本来、機首部分などは特に耐熱性に優れるように設計されていることから、ASCM個艦防御へのレーザー兵器の導入は困難が予想される旨発言している(USNI News)。

 

 一方で無人機への攻撃、あるいはEOセンサの妨害などといった分野では実用化できる段階まで漕ぎつけ、これらを艦艇へ搭載することでいわゆるスウォーム攻撃などへの対処の選択肢が増えるほか、費用対効果の面でミサイルの使用がためらわれる場面でも効果的な迎撃が行えるだろう。

 

 今後は順次システム開発の実績を次の開発に活用して低リスクな手法で確実に出力を向上させるとともに、所要電力を満足させる電力供給システムの開発も両輪で進めることが不可欠になる。今後の推移が特に注目される分野の一つと言える。

 

おわりに

 今回の弊記事準備にあたってakaumigame氏にご協力いただきました。改めて御礼申し上げます。

 

以上、随時加筆修正する。

 

2021/11/27 追記部分加筆

2022/7/1 追記