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PRIVATEERとJTWS Maritime variant: USSOCOMの小型艇用SIGINT/電子戦装置

 今回はこれまで扱ってきた大型水上戦闘艦の電子戦ではなく、特殊作戦に絡む小型艇の電子戦です。米海軍は特殊作戦用途に小型艇を建造・配備してきましたが、特に1990年代以降について資料がいくつか公開されているので整理しておきます。

 

小型艇と電子戦装置

 Mk V特殊作戦艇(SOC; Special Operation Craft)やサイクロン級(Cyclone-class)哨戒艇は特殊作戦支援における部隊の展開・回収や浅海域・沿海域の哨戒などが期待されます。このとき作戦を支援する装備品として、電波環境の状況認識を助ける電子戦装置、より広範なものとしてはSIGINT装置が求められます。

 一般に小型艇では大型艦と比較して"SWaP"すなわちサイズ、重量、所要電力: Size, Weight and Powerの厳しい制限がかかります。1990年代から2000年代にかけて最終試験・調達を行い、先に挙げた舟艇に搭載されたのがPRIVATEERと呼ばれるコンパクトな電子戦装置、あるいは早期警戒装置です。

 PRIVATEERは米海軍の特殊作戦部隊における運用のために開発されたこともあり、詳細について語られた資料はあまりありません。今回は少ない公開資料で述べられたことについてまとめることになります。

 

PRIVATEERの調達

 PRIVATEERにはMk V用とサイクロン級用があり、これらは米特殊作戦軍 (USSOCOM) の予算で調達されました[1]。サイクロン級用はFY95に運用試験および評価 (OT&E: Operational Test and Evaluation)を完了し、FY96から配備用の生産を開始しました。このときの調達は13セットが計画されました。同様にMk V用はFY98にOT&Eを終えて同年生産を開始しました。このとき20セットの調達が計画され、初年度分として7基が納入・装備されました。

 PRIVATEERは特殊作戦用舟艇向けの電子戦装置として装備に至ったわけですが、特殊作戦部隊向けの電子戦装置は舟艇搭載用・航空機搭載用・地上用(兵士による運搬が可能なものを含む)を合わせて統合脅威警報システム (JTWS: Joint Threat Warning System) プログラムで管理されるようになります。JTWSは信号傍受・方向探知・SIGINTによって脅威の警報・部隊保護・状況認識・目標の識別と探知のための能力を特殊部隊に提供するシステムを、漸進的に取得するプログラムです。このプログラムでは航空機搭載用・舟艇搭載用・地上搭載用・無人機搭載用の4つに大別されるシステム群をまとめて管理しています[2]

 PRIVATEERの後継として、舟艇搭載用のJTWS Maritime variantがFY12から開発を開始され、FY14からのプロトタイプ開発を経てFY17に運用試験を開始したようです。これはFY18-20予算で中型戦闘艇 (CCM: Combatant Craft Medium) に統合されました。さらに大型戦闘艇 (CCH: Combatant Craft Heavy) への統合作業は既に完了し、現在は強襲戦闘艇 (CCA: Combatant Craft Assault) への統合を進めていると見られます[2]

 

PRIVATEERの構成

 PRIVATEERはレーダー波および通信波を傍受し、警戒するための電子戦装置です。そのため、基本的にはアンテナと処理装置で特徴づけるのが良いでしょう。まず処理装置について整理します。最も重要な点のひとつは、PRIVATEERの信号処理装置は、より大型の数千トン以上の排水量を持つような艦艇に搭載されるCOMINT装置であるACCES (Advanced Cryptologic Carry-on Exploitation System) およびSSEE (Ship's Signal Exploitation Equipment) と一部共通化されていることです。これらはHF帯からUHF帯の傍受・方向探知を行うシステムであり、もちろん機能・能力は制限されるものの、PRIVATEERによって数百トンから数十トン程度の舟艇に類似の機能が付与されるのは驚くべきことです。

 次にアンテナについて、2003年に米上院軍事委員会の公聴会議事録[3]に興味深い記述があります。曰く、サイクロン級用のPRIVATEERのアンテナとして、BobcatというELINTアンテナ、AS-4293 COMINTアンテナ、AS-145 HFアンテナを使うそうです。BobcatはSenSyTech社の製品で、ArgonST社のWBR-2000というRF脅威警戒システムで使用されます。WBR-2000は2-18 GHzすなわちS-Ku帯をカバーする警戒システムとされており、Bobcatもまたこの全てまたは一部の周波数帯をカバーするものと考えられます。AS-4293は、現在DDG他の大型戦闘艦に搭載されているV/UHF帯の受信用アンテナであるAS-4293Aと類似の機能を提供するものと思われます。AS-145もまた大型戦闘艦にも搭載されるHF帯受信用のアンテナで、Bellini‐Tosi方式の方向探知が可能と思われます。すなわち、低周波数側から順にHFをAS-145、V/UHFをAS-4293、マイクロ波 (~18 GHz) をBobcatが担うことで広いスペクトルにわたって電波監視を可能にしていました。

"Bobcat" ELINTアンテナ[4]

AS-145 HFアンテナ[5]

 これらに基づいてサイクロン級の写真を見てみましょう。前述の通り、サイクロン級への搭載は90年代後半に開始されています。次に2003年3月に撮影されたUSS Chinook (PC 9)の写真へのリンクを貼っておきます。マストの最上部に垂直に円柱状の構造が見えます。その先端にある半球状の装置がBobcatのアンテナです。また、艦中央部を見ると、垂直に突き出た棒に角が丸まった四角形が刺さっているようなものが見えるでしょう。これがAS-145です。AS-4293は確信を得られていないですが、ブリッジ上の円錐台形のアンテナである可能性があります。その後、これらのアンテナは2010年前後に撤去されました。

PRIVATEERを搭載したUSS Tempest (PC 2) (VIRIN: 030710-N-4953E-041, by Mate 2nd Class Danny Ewing, Jr., USN)

commons.wikimedia.org

 続いてMk V向けについて同様に確認します。先程の公聴会議事録に戻ると、Mk VについてはBobcatとCOMINT用にMA-717というホイップアンテナを装備していると言います。ここで、明らかになっているBobcatアンテナを目安にPRIVATEER装備中と撤去後の写真のリンクを順に貼っておきます。これらを見比べていきましょう。

commons.wikimedia.org

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 Bobcatはマストの下から2段目、下をレーダー、上をEOセンサーに挟まれた位置に確認できます。MA-717については詳細な情報を得られなかったので、この写真から推測することになります。2枚の写真を見比べると、Bobcat撤去後にマスト左に設置されたホイップアンテナが無くなっていることがわかります。現時点では、これがおそらくMA-717だろうという推測を立てるしかないようです。長さはざっと1.5 m程度のようなので、1/4波長として50 MHz程度、VHF帯に含まれる周波数と明らかな矛盾はないようです。これらの情報から、Mk V向けのPRIVATEERはサイクロン級向けのものと比較すると、低周波数帯のCOMINT能力は制限されたものになると考えるのが妥当でしょう。

 

PRIVATEERの運用

 PRIVATEERはこれまで述べてきたように通信波およびレーダー波の警戒を行う装置であり、機能は大型艦に搭載されるものと比較するとSSEEやACCES、OUTBOARD、COBLUと呼ばれるSIGINT装置やSLQ-32のような電子戦装置に類似した機能を持ちます。これらを利用して、特殊部隊の支援や沿岸およびチョークポイントにおける偵察を実施することができます[6]。また、サイクロン級向けのPRIAVTEERはSIGINT能力に限られましたが、Mk V向けは加えて電子攻撃能力があったと述べられています[2]。これらPRIVATEERの操作は米海軍保安グループ (NAVSECGRU: Naval Security Group) に人員によって行われたようです[1]。NAVSECGRUは既に改編され、現在は存在しません。

 

PRIVATEERのその後とJTWS Maritime

 PRIVATEERのその後については、サイクロン級・Mk V共に2010年前後にアンテナの撤去が確認できます。サイクロン級はその後、同じくマスト最上部に別のレドームを設置しており、同様にSIGINT用 (特にマイクロ波ELINT) 用である可能性が考えられます。Mk Vは退役してCCMが同種の特殊作戦を担います。CCMおよびCCA、CCHには前述の通りJTWS Maritime Variantが統合されます[2]

 では、JTWS Maritime Variantの搭載を見分ける方法はあるのでしょうか?これは部分的に可能と答えるのが誠実でしょう。JTWS Maritime Variantは船体と一体化されたレドームを有しており、通常のレドームとアンテナが一体化されて一緒に取り外しされるものと同等の確度で「レドームがあるからアンテナがある」とは言い難いところがあります。

 CCMへのJTWS Maritime Variantの搭載は、処理装置およびコンソールをキャビン内に、アンテナは現在も装備されている航海アンテナおよびEOセンサの後方に新しく四角錐台形のレドームを設けてその中に設置するようです[7]。私はまだこのレドームを搭載したCCMの写真を見たことがありません。また、代替のホイップアンテナを使用するケースもあるようで、キャビンの後端両側の屋根部分に設置されたホイップアンテナはJTWSに使用されている可能性が(もちろんほかの用途の可能性も)あります。

 JTWSについては今後CCM、CCH、CCAへの新規搭載品に注目していく必要があります。

赤矢印で示された部分がCCMへ搭載するJTWS Maritime Variantのアンテナ[7]

 

おわり

 以上、PRIVATEERとJTWS Maritime Variantの備忘録でした。なかなか見え難い部分ではありますが、今後の小型艇ウォッチの一助になればと思います。個人的にはUSVとUUVへのSIGINT装置搭載についても今後注目していきたいです。

 

参考

[1] United States Special Operations Forces, Posture Statement 2000, 

https://www.hsdl.org/?abstract&did=1481.

[2] USSOCOM, Budget Estimate FY00/01, FY11-24, 

https://comptroller.defense.gov/Budget-Materials/FY2024BudgetJustification/.

[3] The committee on armed services, United states senate, 

https://www.govinfo.gov/content/pkg/CHRG-107shrg81926/html/CHRG-107shrg81926.htm.

[4] SenSyTech Inc., Passive Surveillance Integrated Systems Solutions, 

https://media.corporate-ir.net/media_files/irol/11/119444/reports/sensytech_corporate_brochure.pdf.

[5] Southwest Research Institute, Signal Exploitation & Geolocation Systems.

[6] C. J. Gilbert, Maritime SOF: Patrol Coastal Ships, A Vital Asset to the Theater CINC (1999) https://apps.dtic.mil/dtic/tr/fulltext/u2/a529635.pdf.

[7] USSOCOM, Mod payload: A Modular Payload Design Standard for UAS, Manned Aircraft and Small Maritime Vessels (2021) https://apps.dtic.mil/sti/citations/AD1167779.