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OSINTに昇華し損なったOpen Source Informationです

USS Abraham Lincoln (CVN 72)特有の平面アンテナについて: NTCDLの配備

 USS Abraham Lincoln (CVN 72)は周知の通り米国西海岸のサンディエゴを母港とする、ニミッツ級原子力空母の一隻です。今回はこの艦について、私がしばらくの間気になっていたことについて書いておこうと思います。ただ、この内容は推測を多く含んでいることを注意として事前にお伝えしておきます。

 私が最初に呟いたのは2022年の12月、ブログに書くまでにしばらく経ってしまいました。今回の話題はこの平面アンテナです。スクリーンショットの写真2枚目で分かるように、USS Abraham Lincolnはマストによく似た平面アンテナを4面×3組の12枚も持っています。これは他の空母では見られない装備品です。

USS Abraham Lincoln (CVN 72)に搭載された平面アンテナ (米海軍, VIRIN: 221204-N-IT121-1084)

USS Abraham Lincoln (CVN 72)に搭載された平面アンテナ (米海軍, VIRIN: 220811-N-VW723-1115)

スクリーンショット

 米空母のマストに装備する4面固定式の平面アンテナと言えば、CEC (Cooperative Engagement Capability)の通信に用いるPAAA (Planar Array Antenna Assembly)かUSS Gerald R. Ford (CVN 78)に搭載されるSLQ-32(V)6のESアンテナくらいでしょうか。写真のアンテナはこれらとは違って見えます。

USS Gerald R. Ford (CVN 78)のマストに設置されたPAAA(上段)とSLQ-32(V)6のESアンテナ(米海軍, VIRIN: 240117-N-XI307-1289)

 USS Abraham Lincolnが装備しているPAAAを除く4面2組のアンテナは、おそらくNTCDL (Network Tactical Common Data Link)のアンテナであろうと私は今のところ推測しています。ただし、同艦に搭載された明確な証拠が見つからず、NTCDLの新型アンテナの外観についての詳細な情報も持っていないので確信するには至っていません。

 NTCDLはPMW/A 170が進めるプログラムでBAE Systemsによって開発された、従来のCDLファミリーに後方互換性を有する新型の共通データリンクシステムです。NTCDLはフェーズドアレイアンテナの採用により、同時に複数のユニットとのリアルタイムデータリンクが可能になるとされています。このような機能は、F-35CやMQ-25のような無人機の運用に不可欠なものになるでしょう。従来のCDLの艦上アンテナはパラボラアンテナを使用しており、同時に通信可能なユニットはアンテナ一つにつき一つだけと思われます。

https://www.baesystems.com/en-us/product/network-tactical-common-data-link

 NTCDLアンテナの外観については、公開情報を調べている限りではPMW/A-170プログラムマネージャーのスライド (https://www.ndia-sd.org/wp-content/uploads/2017/02/3.PMW-A%20170_NDIA%20Fall%20Forum%202016%20Brief_OCT16.pdf) にポンチ絵があるだけのようです。これを見る限りは、パラボラアンテナまたは/およびフェーズドアレイアンテナの指向性通信と無指向性アンテナを使用するようです。

NTCDLのポンチ絵 (https://www.ndia-sd.org/wp-content/uploads/2017/02/3.PMW-A%20170_NDIA%20Fall%20Forum%202016%20Brief_OCT16.pdf)

 USS Abraham Lincolnへの搭載の時系列について確認すると、これらの平面アンテナは2020-2021年頃に搭載され、この段階では従来のCDL用パラボラアンテナは搭載されたままでした。2022年の太平洋展開の後、これらは撤去されて新しい平面アンテナだけになったようです。

 USS Abraham Lincoln搭載機で4面1組ではなく2組になっているのは、おそらく送信アレイと受信アレイが分割されているから(、もしくは広帯域の使用のために周波数帯別に2組を使用しているから)でしょう。RFI時の契約とQ&A (N00039-14-R-0001) を見ると、添付資料にはアクセスできませんが4面2組を想定していた様子が伺えます。

sam.gov

 こういったデータリンク装置で思い出すのが、AMRFCやInTop EW/IO/Comm ADMの存在です。AMRFCでは通信を含めた多機能フェーズドアレイの研究を行い、送信アレイおよび受信アレイを分割した構成でCDL/TCDLを含む複数の機能の同時使用を実証しました。NTCDLでは5ユニット以上との同時通信が謳われており、このような能力は不可欠です。SEWIPも含めて、このような形で20年を超える開発史を眺められることには (関係のない外部のものとしては) ロマンを感じずにはいられません。

orca-oruka.hatenablog.com

 NTCDLはコンステレーションフリゲートも"Variant B"と呼ばれるタイプを搭載することになっており、今後は他の空母等への搭載と並んで注目したいところです。以上、NTCDL (かもしれない)アンテナの話でした。

米海軍ソノブイ予算 FY25

 今年もBudget Estimateが出ました。恒例になりつつありますが、米海軍ソノブイ予算を概観する季節です。

 

orca-oruka.hatenablog.com

 

https://www.secnav.navy.mil/fmc/Pages/Fiscal-Year-2025.aspx

https://www.secnav.navy.mil/fmc/fmb/Documents/25pres/OPN_BA3_Book.pdf

 

 FY25の要求額は3.23億ドルであり、これはFY24までの最高額を上回って過去最大額の要求です。もっとも、FY20以降は3億ドル前後(FY20-23実績値、FY24予算計上)が継続して上げ止まっているのが現状です。

 

 FY25もソノブイ予算ではSSQ-53G DIFAR, SSQ-62F DICASS, SSQ-101B ADAR, SSQ-125A MACとSSQ-36 BTの調達が予定されます。調達額の内訳の推移を確認すると、FY25の調達はFY24と同様にSSQ-125 MACの調達に予算を多く割いていることがわかります。MACはこれら5種のブイの中で突出して高価なマルチスタティック音源であり、予算資料中でもMACの十分な調達によって効率的な潜水艦捜索が可能になると強調されています。

FY25ソノブイ予算の内訳

 現在のソノブイ調達を困難なものにさせている要因のひとつが、製造体制の変更です。米海軍はこれまでERAPSCOというジョイントベンチャーと契約していましたが、FY24からはこのJVを解体し、これを構成していたSpartonとUSSIの2社、そしてLockheed Martinそれぞれと契約することになります。この2社生産体制は将来的には競争力を生み出すでしょうが、現在においては体制の構築と製造能力の認証、そして生産量の分割によって十分なメリットを生むに至っていません。

 これらを原因として、Lockheed Martinが単独で全量を生産するSSQ-125を除いた4種はFY25で単価が上昇しています。SSQ-125の調達の要求と単価の上昇から導かれた結果は、SSQ-53の調達数の減少です。SSQ-53はソノブイ調達数の7割前後を占めており、SSQ-36を除いた4種の調達要求総数はFY24の約18.7万個からFY25で約13.9万個まで減少しました。

ソノブイ単価の推移

ソノブイ調達数の推移

 この単価の動きを少し異なる視点から見るために、DIFARの価格を1としたときのそれぞれのブイの相対的な価格で推移を見てみましょう。これを見る限り、何か特定のソノブイが急激な価格上昇を生じているわけではないことがわかります。SSQ-101Bはかつて原材料を原因として価格が上昇しましたが、そのような個々のソノブイに由来する大きなコスト上の課題は、少なくとも表出していないと言ってよいでしょう。

相対単価の推移

PRIVATEERとJTWS Maritime variant: USSOCOMの小型艇用SIGINT/電子戦装置

 今回はこれまで扱ってきた大型水上戦闘艦の電子戦ではなく、特殊作戦に絡む小型艇の電子戦です。米海軍は特殊作戦用途に小型艇を建造・配備してきましたが、特に1990年代以降について資料がいくつか公開されているので整理しておきます。

 

小型艇と電子戦装置

 Mk V特殊作戦艇(SOC; Special Operation Craft)やサイクロン級(Cyclone-class)哨戒艇は特殊作戦支援における部隊の展開・回収や浅海域・沿海域の哨戒などが期待されます。このとき作戦を支援する装備品として、電波環境の状況認識を助ける電子戦装置、より広範なものとしてはSIGINT装置が求められます。

 一般に小型艇では大型艦と比較して"SWaP"すなわちサイズ、重量、所要電力: Size, Weight and Powerの厳しい制限がかかります。1990年代から2000年代にかけて最終試験・調達を行い、先に挙げた舟艇に搭載されたのがPRIVATEERと呼ばれるコンパクトな電子戦装置、あるいは早期警戒装置です。

 PRIVATEERは米海軍の特殊作戦部隊における運用のために開発されたこともあり、詳細について語られた資料はあまりありません。今回は少ない公開資料で述べられたことについてまとめることになります。

 

PRIVATEERの調達

 PRIVATEERにはMk V用とサイクロン級用があり、これらは米特殊作戦軍 (USSOCOM) の予算で調達されました[1]。サイクロン級用はFY95に運用試験および評価 (OT&E: Operational Test and Evaluation)を完了し、FY96から配備用の生産を開始しました。このときの調達は13セットが計画されました。同様にMk V用はFY98にOT&Eを終えて同年生産を開始しました。このとき20セットの調達が計画され、初年度分として7基が納入・装備されました。

 PRIVATEERは特殊作戦用舟艇向けの電子戦装置として装備に至ったわけですが、特殊作戦部隊向けの電子戦装置は舟艇搭載用・航空機搭載用・地上用(兵士による運搬が可能なものを含む)を合わせて統合脅威警報システム (JTWS: Joint Threat Warning System) プログラムで管理されるようになります。JTWSは信号傍受・方向探知・SIGINTによって脅威の警報・部隊保護・状況認識・目標の識別と探知のための能力を特殊部隊に提供するシステムを、漸進的に取得するプログラムです。このプログラムでは航空機搭載用・舟艇搭載用・地上搭載用・無人機搭載用の4つに大別されるシステム群をまとめて管理しています[2]

 PRIVATEERの後継として、舟艇搭載用のJTWS Maritime variantがFY12から開発を開始され、FY14からのプロトタイプ開発を経てFY17に運用試験を開始したようです。これはFY18-20予算で中型戦闘艇 (CCM: Combatant Craft Medium) に統合されました。さらに大型戦闘艇 (CCH: Combatant Craft Heavy) への統合作業は既に完了し、現在は強襲戦闘艇 (CCA: Combatant Craft Assault) への統合を進めていると見られます[2]

 

PRIVATEERの構成

 PRIVATEERはレーダー波および通信波を傍受し、警戒するための電子戦装置です。そのため、基本的にはアンテナと処理装置で特徴づけるのが良いでしょう。まず処理装置について整理します。最も重要な点のひとつは、PRIVATEERの信号処理装置は、より大型の数千トン以上の排水量を持つような艦艇に搭載されるCOMINT装置であるACCES (Advanced Cryptologic Carry-on Exploitation System) およびSSEE (Ship's Signal Exploitation Equipment) と一部共通化されていることです。これらはHF帯からUHF帯の傍受・方向探知を行うシステムであり、もちろん機能・能力は制限されるものの、PRIVATEERによって数百トンから数十トン程度の舟艇に類似の機能が付与されるのは驚くべきことです。

 次にアンテナについて、2003年に米上院軍事委員会の公聴会議事録[3]に興味深い記述があります。曰く、サイクロン級用のPRIVATEERのアンテナとして、BobcatというELINTアンテナ、AS-4293 COMINTアンテナ、AS-145 HFアンテナを使うそうです。BobcatはSenSyTech社の製品で、ArgonST社のWBR-2000というRF脅威警戒システムで使用されます。WBR-2000は2-18 GHzすなわちS-Ku帯をカバーする警戒システムとされており、Bobcatもまたこの全てまたは一部の周波数帯をカバーするものと考えられます。AS-4293は、現在DDG他の大型戦闘艦に搭載されているV/UHF帯の受信用アンテナであるAS-4293Aと類似の機能を提供するものと思われます。AS-145もまた大型戦闘艦にも搭載されるHF帯受信用のアンテナで、Bellini‐Tosi方式の方向探知が可能と思われます。すなわち、低周波数側から順にHFをAS-145、V/UHFをAS-4293、マイクロ波 (~18 GHz) をBobcatが担うことで広いスペクトルにわたって電波監視を可能にしていました。

"Bobcat" ELINTアンテナ[4]

AS-145 HFアンテナ[5]

 これらに基づいてサイクロン級の写真を見てみましょう。前述の通り、サイクロン級への搭載は90年代後半に開始されています。次に2003年3月に撮影されたUSS Chinook (PC 9)の写真へのリンクを貼っておきます。マストの最上部に垂直に円柱状の構造が見えます。その先端にある半球状の装置がBobcatのアンテナです。また、艦中央部を見ると、垂直に突き出た棒に角が丸まった四角形が刺さっているようなものが見えるでしょう。これがAS-145です。AS-4293は確信を得られていないですが、ブリッジ上の円錐台形のアンテナである可能性があります。その後、これらのアンテナは2010年前後に撤去されました。

PRIVATEERを搭載したUSS Tempest (PC 2) (VIRIN: 030710-N-4953E-041, by Mate 2nd Class Danny Ewing, Jr., USN)

commons.wikimedia.org

 続いてMk V向けについて同様に確認します。先程の公聴会議事録に戻ると、Mk VについてはBobcatとCOMINT用にMA-717というホイップアンテナを装備していると言います。ここで、明らかになっているBobcatアンテナを目安にPRIVATEER装備中と撤去後の写真のリンクを順に貼っておきます。これらを見比べていきましょう。

commons.wikimedia.org

commons.wikimedia.org

 Bobcatはマストの下から2段目、下をレーダー、上をEOセンサーに挟まれた位置に確認できます。MA-717については詳細な情報を得られなかったので、この写真から推測することになります。2枚の写真を見比べると、Bobcat撤去後にマスト左に設置されたホイップアンテナが無くなっていることがわかります。現時点では、これがおそらくMA-717だろうという推測を立てるしかないようです。長さはざっと1.5 m程度のようなので、1/4波長として50 MHz程度、VHF帯に含まれる周波数と明らかな矛盾はないようです。これらの情報から、Mk V向けのPRIVATEERはサイクロン級向けのものと比較すると、低周波数帯のCOMINT能力は制限されたものになると考えるのが妥当でしょう。

 

PRIVATEERの運用

 PRIVATEERはこれまで述べてきたように通信波およびレーダー波の警戒を行う装置であり、機能は大型艦に搭載されるものと比較するとSSEEやACCES、OUTBOARD、COBLUと呼ばれるSIGINT装置やSLQ-32のような電子戦装置に類似した機能を持ちます。これらを利用して、特殊部隊の支援や沿岸およびチョークポイントにおける偵察を実施することができます[6]。また、サイクロン級向けのPRIAVTEERはSIGINT能力に限られましたが、Mk V向けは加えて電子攻撃能力があったと述べられています[2]。これらPRIVATEERの操作は米海軍保安グループ (NAVSECGRU: Naval Security Group) に人員によって行われたようです[1]。NAVSECGRUは既に改編され、現在は存在しません。

 

PRIVATEERのその後とJTWS Maritime

 PRIVATEERのその後については、サイクロン級・Mk V共に2010年前後にアンテナの撤去が確認できます。サイクロン級はその後、同じくマスト最上部に別のレドームを設置しており、同様にSIGINT用 (特にマイクロ波ELINT) 用である可能性が考えられます。Mk Vは退役してCCMが同種の特殊作戦を担います。CCMおよびCCA、CCHには前述の通りJTWS Maritime Variantが統合されます[2]

 では、JTWS Maritime Variantの搭載を見分ける方法はあるのでしょうか?これは部分的に可能と答えるのが誠実でしょう。JTWS Maritime Variantは船体と一体化されたレドームを有しており、通常のレドームとアンテナが一体化されて一緒に取り外しされるものと同等の確度で「レドームがあるからアンテナがある」とは言い難いところがあります。

 CCMへのJTWS Maritime Variantの搭載は、処理装置およびコンソールをキャビン内に、アンテナは現在も装備されている航海アンテナおよびEOセンサの後方に新しく四角錐台形のレドームを設けてその中に設置するようです[7]。私はまだこのレドームを搭載したCCMの写真を見たことがありません。また、代替のホイップアンテナを使用するケースもあるようで、キャビンの後端両側の屋根部分に設置されたホイップアンテナはJTWSに使用されている可能性が(もちろんほかの用途の可能性も)あります。

 JTWSについては今後CCM、CCH、CCAへの新規搭載品に注目していく必要があります。

赤矢印で示された部分がCCMへ搭載するJTWS Maritime Variantのアンテナ[7]

 

おわり

 以上、PRIVATEERとJTWS Maritime Variantの備忘録でした。なかなか見え難い部分ではありますが、今後の小型艇ウォッチの一助になればと思います。個人的にはUSVとUUVへのSIGINT装置搭載についても今後注目していきたいです。

 

参考

[1] United States Special Operations Forces, Posture Statement 2000, 

https://www.hsdl.org/?abstract&did=1481.

[2] USSOCOM, Budget Estimate FY00/01, FY11-24, 

https://comptroller.defense.gov/Budget-Materials/FY2024BudgetJustification/.

[3] The committee on armed services, United states senate, 

https://www.govinfo.gov/content/pkg/CHRG-107shrg81926/html/CHRG-107shrg81926.htm.

[4] SenSyTech Inc., Passive Surveillance Integrated Systems Solutions, 

https://media.corporate-ir.net/media_files/irol/11/119444/reports/sensytech_corporate_brochure.pdf.

[5] Southwest Research Institute, Signal Exploitation & Geolocation Systems.

[6] C. J. Gilbert, Maritime SOF: Patrol Coastal Ships, A Vital Asset to the Theater CINC (1999) https://apps.dtic.mil/dtic/tr/fulltext/u2/a529635.pdf.

[7] USSOCOM, Mod payload: A Modular Payload Design Standard for UAS, Manned Aircraft and Small Maritime Vessels (2021) https://apps.dtic.mil/sti/citations/AD1167779.

 

米海軍DDGにおける小型UASの運用について

 最近の米海軍は艦艇を拠点とした小型UAS (sUAS) の運用を積極的に行っています。無人機の利点は危険な状況下においても人的被害が生じるおそれがないことがまず挙げられるでしょう。加えて特に近年の固定翼sUASに注目すると、小さい艦上フットプリントで長時間の水上・地上監視を実現できることは大きな利点になります。例えば以前取り上げたAerosondeは、形態によりますが、最大で12-20時間の航続時間を有するとされています[1]。ここでは艦に搭載されたレドームを見ることで、Aerosondeの運用能力の有無について推測しました。

orca-oruka.hatenablog.com

 今回は艦上からの運用が確認されている他の固定翼sUASである、ScanEagleとV-BAT、FlexRotorについて同様に確認します。

 

Insitu ScanEagle

 ScanEagleはScanEagle2が陸上自衛隊が導入したことでも気になる存在ですね。ScanEagleの地上ステーションと機体の間の通信には、パラボラアンテナが使われることが知られていて、これは一部の部品を取り外した形態で展示している写真が公開されています。同じアンテナは試験艦『あすか』における艦上運用の試験の際に艦橋の上に設置されていましたね。探してみてください(丸投げ)。

陸上自衛隊第15情報隊のScanEagle用パラボラアンテナ(VIRIN: 230725-M-YL383-1142)

 さて、米海軍の話に戻ると、米海軍は2000年代からDDGからScanEagleの運用を一部で行っていました。最もアンテナの確認が容易なケースは、2011年のUSS Mahan (DDG 72)の場合でしょう。

 USS Mahanは2011年にリビアに対して行われたNATOのユニファイド・プロテクター作戦に参加し、搭載したScanEagleの運用によって重要な役割を果たしたといいます[2]。このときの出港・帰港時の写真を確認すると、いずれもウイングに新しくパラボラアンテナのレドームが設置されていることがわかります。これにScanEagle用のアンテナが入っているのでしょう。

USS Mahanに搭載されたScanEagle用アンテナ。ブリッジの上ではなく、ブリッジと同レベルに設置されているグレーのレドームに注目 (VIRIN: 101107-N-5292M-307)

 ミサイル駆逐艦で同様のレドームの搭載を探すと、2007年のUSS Oscar Austin (DDG 79)、2008年のUSS Mahan (DDG 72)、2011年のUSS Roosevelt (DDG 80)、2012年のUSS McFaul (DDG 74)、2013年のUSS Gonzalez (DDG 66)、2014年のUSS Oscar Austin (DDG 79)とUSS Bainbridge (DDG 96)が見つかった。現在はESBへの搭載が確認できる。このレドームを探す際の特徴は、若干高さがあって頂点に出っ張りがあることでしょうか。

USS Oscar Austinへの搭載。SPY-1のアレイの上、左側のレドームがこれ。 (VIRIN: 141121-N-AZ301-337)

 

Shield AI V-BAT

 V-BATはテールシッター型のsUASであり、固定翼でありながら垂直離着陸を行うことができます。そのため固定翼機の高速性・高い航続性能を持ちながら、DDGのヘリコプターデッキにおける運用でもカタパルトや大型の回収用機材を必要としません。ダクテッドファンによる推進なので離着陸中に人が近寄ることができ、直接手で支えている様子が見られます。

 この機体のためのアンテナとしては、2021年USS Portland (LPD 27)、2022年のUSS Michael Monsoor (DDG 1001)とUSS Rushmore (LSD 47)、 USS Arlington (LPD 24)、そして2023年のUSS New York (LPD 21)で、下に示す三脚に乗せたレドームが臨時に設置されていることを確認しました。USS Arleigh Burke (DDG 51)でも2022年に運用されたと発表されました[3]が、同艦においては確認できていません。現在はこれが通信に用いられていると考えています。

USS Arlingtonに設置された、V-BAT通信用と思われるアンテナ (VIRIN: 220919-N-PC065-2005)

 

Aerovel Flexrotor

 FlexrotorはV-BAT同様にテールシッター型の機体ですが、より大型のプロペラを備えています。中東において米沿岸警備隊のカッターからFlexrotorを飛ばしている映像などがよく見られます。TF59において運用されており、USS McFaul (DDG 74)やUSS Indianapolis (LCS 17)における着艦・発艦が確認できます。USS Stethemでは、ホームページで見られる[4]のと同様にL3 HarrisのStinger MB[5]というターミナルを使っていました。

USS McFaul に搭載されたStinger MB (VIRIN: 231006-N-HY958-1037)

aerovel.com

 

 

おわり

 というわけで、以上が米海軍の水上戦闘艦で運用する固定翼sUASのアンテナ達でした。米海軍のDDGを見かけたらチラッと確認してみると、新たなsUASの運用能力付与など面白い発見があるかもしれません。おわり。

 

参考

[1] Textron Systems, Aerosonde UAS, 

https://www.textronsystems.com/products/aerosonde-uas.

[2] Wayback Machine; Insitu Pacific, ScanEagle Unmanned Aircraft Systems Backgrounder,

https://web.archive.org/web/20230310152911/https://www.boeing.com.au/resources/en-au/media/BoeingAustralia/Featured-Content/pdf/ScanEagle-Backgrounder_IPL.pdf.

[3] Shield AI, A Quarter-Million Hours & Counting: Shield AI’s Seasoned Flight Operations Professionals, 

https://shield.ai/shield-ais-seasoned-flight-operations-professionals/.

[4] Aerovel, Flexrotor and 100km tracking antenna,

https://aerovel.com/photos/flexrotor-and-100km-tracking-antenna/.

[5] L3 Harris, Stinger MB,

https://www.l3harris.com/all-capabilities/stinger-mb-ground-terminal-system.

 

最近と将来のSURTASSについての備忘録

 

orca-oruka.hatenablog.com

 以前「米海軍の海洋音響監視」としてSurveillanceの領域にあたる米海軍の装備品をいくつか紹介しました。今回はSURTASSに注目して、情報のアップデートと最近の動向について軽くまとめます。

 

現在の運用状況

 現在米海軍はSURTASS艦としてヴィクトリアス音響測定艦4隻とインペッカブル音響測定艦1隻を運用しています。(※米海軍はこれらを"ocean surveillance ship"と呼んでいるので直訳すれば「海洋監視艦」とかになるのかもしれないですけれど、海自に合わせて音響測定艦と呼ぶことにします。) これらは曳航アレイと、USNS Loyal (T-AGOS 22)を除く4隻は低周波音源を備えています。これら5隻はいずれも西太平洋で集中して運用されており、横浜でよく見られます。T-AGOS(X)またはT-AGOS 25級として新型音響測定艦7隻の調達プログラムを進めています。また、オフショア支援船に搭載するコンテナベースの音源を持たないSURTASSとしてSURTASS-E (EはExpeditionary: 遠征)を開発し、民間のオフショア支援船を傭船して大西洋で運用しているようです。

 海上自衛隊はひびき型音響測定艦を3隻運用しています。これらは低周波音源は持たないと考えています。令和4年度予算で4隻目のひびき型音響測定艦の建造が計上されています。

 

米海軍の新型SURTASS艦調達

 米海軍は現在T-AGOS(X)として次期音響測定艦調達計画を開始し、2022年度予算で1隻目を計上しました。しかし1隻目の調達費は当初の計画から82%増加し、差額分は2024年度予算で支出するようです[1]。詳細設計・建造はAustal USAとなり、1隻目は2028年に引渡しの予定のようです[2, 3]。2隻目は2025年度予算で計上予定とされています。この春に出る2025年度予算案で明らかになるでしょう。

 T-AGOS 25級は従来のヴィクトリアス級やインペッカブルよりも大型化・高速化が進められると伝えられています。また、就役当初から低周波音源も搭載するようです。米海軍の音響測定艦低周波音源は、USNS Impeccable (T-AGOS 23)に搭載されたLFA (Low Frequency Active)と、ヴィクトリアス級向けのCLFA (Compact LFA)が運用されています。これらはそれぞれLTS (LFA Transmit Subsystem, AN/WQT-2)、CLTS (Compact LTS)と呼ばれることもあります。厳密に同じものかどうか確たる証拠はないですが、T-AGOS 25級にもCLTSが搭載されるようです[4]。この契約はCLTS 7基の生産等からなり、生産はBAE Systemsによって行われる見込みです。他にTL-29A 10基の調達についても検索に引っかかります[5]

T-AGOS(X) 運用コンセプト図[6]

 

オーストラリアのSURTASS-E導入?

 2023年5月にオーストラリア向けにSURTASS-EのFMSに認可が下りました[7]。日米は双胴船体を持つ専用のSURTASS艦を運用していますが、SURTASS-Eは十分な甲板の広さ(船首尾方向に約30 m, 横方向に約10 mの長方形を超えること)があれば一般的なオフショア支援船で展開できることはコスト面で利点があります。導入されれば日米との運用上の協力が気になるところです。

 

将来のSURTASSセンサについて

 将来のSURTASS向け曳航アレイについて、次世代監視用アレイ(NGSA: Next Generation Surveillance Array)としてRFIが昨年に出ていました[8]。書き方からするとTL-29Aのように複数のアレイからなるシステムを想定しているようです。TL-29Aはそもそも潜水艦用の曳航アレイTB-29Aを2本使って構成したものです。TB-29AはTB-29Cに移行したので、これは調達の都合上TL-29Cとでも呼ぶべきものに変わるのでしょうか。T-AGOS 25が高速化を指向するならば、太い単一アレイで...という妄想もしましたが、まあ...

 

 

参照

[1] Congressional Research Service, "Navy TAGOS-25 Ocean Surveillance Shipbuilding Program: Background and Issues for Congress", Dec 20, 2023. 

https://crsreports.congress.gov/product/details?prodcode=IF11838

[2] DOD FY 2024 Budget Estimate, Shipbuilding and Conversion, Mar 2023. 

https://www.secnav.navy.mil/fmc/fmb/Pages/Fiscal-Year-2024.aspx

[3] DOD Contracts May 18, 2023. 

https://www.defense.gov/News/Contracts/Contract/Article/3400382/

[4] N00039_SNOTE_08AF88A2 SURTASS CLTS Production, Oct 26, 2023. 

https://sam.gov/opp/a44ba48b787947fe87ea2d8a79744f15/view

[5] N00039_SNOTE_011ED427 SURTASS TL-29A Production, Jun 10, 2023. 

https://sam.gov/opp/695adb10e2584512b15f2098ca3bf215/view

[6] N00024-19-R-2218 Industry Day Announcement for the T-AGOS(X) Class Small Waterplane Twin Hull (SWATH) Ships, Aug 7, 2019. 

https://sam.gov/opp/92de941d6113a3effa5dfad42fbe6f99/view

[7] Australia – Surveillance Towed Array Sensor System Expeditionary (SURTASS-E) Mission Systems, May 4, 2023. 

https://www.dsca.mil/press-media/major-arms-sales/australia-surveillance-towed-array-sensor-system-expeditionary-surtass

[8] NAVWAR_Headquarters_MKTSVY_1948B2 Next Generation Surveillance Array RFI, Sep 23, 2023. 

https://sam.gov/opp/4137a27875c54c9f80fceb7a9e892494/view

米海軍は無人機をどう使うのか: 中東番外編1

 前回の『UxS IBP 23その5』ではIBP 23.2を第7艦隊AORで実施し、USV Ranger, Marinerの2隻が横須賀に寄港したところまでを追いかけました。横須賀入港中にはUSV Rangerの報道公開が実施され、いくつか記事が出ています。米海兵隊のIII MEFとの連携も実証されたとの報道もあります。

trafficnews.jp

 

 この2隻は横須賀を離れた後、他の2隻 (USV Sea Hunter, Seahawk) と合流してパプアニューギニアのラエ、オーストラリアのタウンズヴィルに寄港してシドニーに入港しています。これはIBP 23.2に続いてオーストラリアと共に実施するIBP 23.3のためとみられます。しばらくUxS IBP 23を追ってきましたが、今(11月はじめ)は公式発表がないので中東に目を向けてみます。

 

 TF 59は米第5艦隊AORにおける海上作戦に無人システムとAIを統合するため、2021年9月に設置された任務部隊です。これまでの2年間でUAV, USV, UUVと幅広い無人機を運用してきており、今年既に完全作戦能力(FOC)を宣言しています。

www.cusnc.navy.mil

 

 また、第5艦隊は無人機と有人艦艇のチームによってホルムズ海峡周辺でイスラム革命防衛隊の舟艇を数日にわたって監視・追跡したと発表したことがあります。

https://www.dvidshub.net/news/455362/

 

 さて、11月2日に米軍が発表したところによると、NAVCENTはExercise Digital TalonにおいてMARTAC T-38 Devil Ray USVから Lethal Miniature Aerial Missile System (LMAMS)を発射して水上目標を攻撃することに成功したそうです。これは「中東地域におけるUSVからの致死性弾薬の初めての使用」であったとしています。

www.cusnc.navy.mil

LMAMSの発射 (VIRIN: 231023-N-XT273-1178)

MPLを備えたT-38 Devil Ray USV (VIRIN: 231026-N-EG592-1080)

 ここで言うLMAMSとはAeroVironment Switchblade 300のようです。使用された発射機は外見からMulti Pack Launcher (MPL)と呼ばれる6連装発射機でしょう。T-38 USVからSwitchbladeを発射するのは、米海軍全体で見ると最初ではありません。今年春のUxS IBP 23.1で実施されていました。

orca-oruka.hatenablog.com

 

 気になるところは人それぞれでしょうが (たとえばMPLの太陽電池の有無、いずれにもStarshield/Starlink Maritimeのアンテナが設置されている点、レーダーの装備等)、このときと比較することで、いくつか興味深い点が見えてきそうです。

米海軍は無人機をどう使うのか: UxS IBP 23 その5

 前回のUxS IBP 23のエントリ公開から少し間が空きました。前回まではフェーズ1として行われたIBP 23.1、今回からフェーズ2たるIBP 23.2に入ります。23.1はカリフォルニア州の沿岸で行われたようでしたが、23.2はハワイ周辺海域、そして広大な西太平洋海域になっているようです。いずれもUxS IBPは、無人機を今後太平洋艦隊の戦力とどのように組み合わせていくべきか、といった知見を得るための一連の実験・試験です。

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 IBP 23.2については、実のところ報道がまだほとんどありません。数少ない公式からの発表は、8月中旬にIBP 23.2のためにパールハーバーに入ったUSV Sea HunterとUSV Rangerの視察が行われた、という軽い言及程度のものでした。この2隻の他に、USV SeahawkとUSV Marinerも同様にハワイに到着しました。

ハワイ・パールハーバーのUSV Sea Hunter (VIRIN: 230814-N-GZ228-1076)

 

USV Ranger (VIRIN: 230814-N-GZ228-1025)

 米海軍は中型および大型のUSVの運用に向けてプロトタイプの無人艦をそれぞれ2隻と4隻調達し、USVDIV-1に集中して配属して試験を行っています。中型USV (MUSV)は主にセンサーとして機能することを目指しています。トリマラン(三胴船)船型が特徴的なプロトタイプのSea HunterおよびSeahawkはASWを想定して曳航ソナーを装備できるようになっています。これらはIBP 23.1への参加が確認されています。

 大型USV (LUSV)はミサイル等の発射を担うことが期待されており、プロトタイプとして"Ghost Fleet Overlord"と呼ばれる4隻が建造されています。今回はそのうちRangerとMarinerの2隻が参加しているようです。Rangerは2021年にはコンテナの外装をしたミサイル発射機からSM-6を発射しましたが、今回はミサイル発射機は搭載していないようです。

 しかしその後にIBP 23.2について広報されることはなく、これらのUSVに関する情報はEd Schaefer氏 (𝕏: @ES12071207) による出航情報の投稿を最後にほぼ1カ月途絶えていました。

 しかし先週になって、状況が変わりました。USV Marinerだけですが、沖縄のホワイトビーチのすぐ沖でAISを発信した記録がMarineTrafficに表示されました。これによって西太平洋での活動をほぼ確信したところで、9月18日にRangerおよびMarinerが横須賀港に入港し、驚きをもって迎えられました。現地が羨ましい。グアム等に寄港してコンテナモジュールの積み下ろしをしている可能性も考えられましたが、特に目立つものは無いようです。

 さて、ほとんど公開されていないIBP 23.2について、現在得られる情報で特筆すべきことは、今行っている実験は今後の米第7艦隊の戦力として有人・無人システムを共に配備することを想定したものであることです。これまでに行われたIBP 21とIBP 23.1は、いずれも東太平洋を担当する米第3艦隊によって行われていたものでした。これまでと異なり西太平洋に展開しているのはこのためです。IBPは実験的なもので配備が決まっているわけでもなければ、具体的に何をしているのかという点は依然明らかになっていないため疑問の残るところですが、2030年代の部隊構成に大きな影響を与える可能性のある実験であることは間違いなさそうです。しばらく目が離せそうにありません。

www.cpf.navy.mil