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米海軍の謎レドームと洋上における小型UASの運用

 アンテナを眺めるの、楽しいですよね。レドームを眺めていたらプレスリリースが見つかるという、なんだか想定されている逆向きであろう彷徨い方をしたOSINFOの実録読み物です。広報写真はいいぞ。

 

謎のアンテナ、DDGに載る

 艦載アンテナというと読者の皆さんはどんなものを思い浮かべるでしょうか。特に米軍のものだと、ミサイル駆逐艦を眺めるだけでもSPY-1のような大型フェーズドアレイ、航海レーダーなどに用いられるスロットアレイ、ミサイルのイルミネーターに用いられるパラボラと形状にも特徴的なアンテナが多く見られます。慣れた方ではこれらの判別も容易でしょうが、識別がややこしいのがレドームに覆われたものでしょう。特に衛星通信用のパラボラアンテナなどは皆、白色から灰色の複合材のレドーム(それもしばしばよく似た形状・サイズ)に覆われ、アンテナ本体が見えません。レドームのシルエットからある程度の見分けがついても、(少なくとも私にとっては)概観だけであっても米軍の衛星通信の全貌を見渡してシステムと端末を対応させるのは非常に骨の折れることで容易ではありません。

 そんなこんなで個人的に敬遠していた米海軍の艦艇搭載レドーム群ですが、ここにきて非常に目立つものが現れました。そもそもこれまでにこの種のアンテナの搭載に使われてこなかった位置に、レドームが設置され始めたのです。

 アーレイ・バークミサイル駆逐艦SPY-1の上にブリッジがあり、その両脇は露天の張り出し(ウイング)が設けられています。これまで、主にブリッジの天井の上に衛星通信アンテナが置かれてきており、ウイングには探照灯や双眼鏡など周囲の監視のための装置が主に置かれてきました。しかし最近、横須賀に前方配備されているミサイル駆逐艦のウイングに灰色のレドームが置かれるようになりました。

USS Higgins; ウイングに一段低く設置してあるレドームに注目 (VIRIN: 220315-N-TR141-0226)

 初めに搭載されたのはUSS Higgins (DDG 76)でした。USS Higginsはちょうど1年前(2021年8月16日)に横須賀に母港を移し、DESRON 15に加わりました。その後西太平洋を中心に展開したりしていましたが、年が明けると整備に入りました。2月に整備が終わり再び洋上へ出るとき、ウイングには見慣れないレドームが両舷1基ずつ、2基を1組に設置されていました。

 2番目に見つけたのがUSS Milius (DDG 69)です。USS Miliusは2018年から横須賀に配備されていますが、このレドームが設置されたのはつい先日、2022年の8月24-25日頃とみられます。

 

......何者??

 さて、このような搭載のしかたはこれまでなされてきませんでしたし、これはいったい何者だろうと私は頭を悩ませたわけです。サイバー戦あるいはミサイル防衛(BM, HGV, HCM)関連で何か新しく対応する衛星通信システムを増やしたのだろうか、どこの資料を漁れば関連する情報が出てくる(かもしれない)だろうか...?しかし結果としては、これは見当違いなアタリだったということになりそうです。

 そのうちにUSS Higginsの運用の様子を移した広報写真が多く公開され始め、その中には例のレドームが割ときれいに見えるものも含まれていました。写りのいい写真を何枚か集めてホクホクしていると、どことなく見覚えがあるような、薄っすらとした記憶が浮かんできました。それは地球の裏側で撮られた、それもミサイル駆逐艦でもミサイル巡洋艦でもなく、遠征海上基地艦(艦種記号はESB)でした。

USS Hershel "Woody" Williamsのレドーム (VIRIN: 200827-N-AO868-1043)

 

地道に裏取り、DVIDS様様

 遠征海上基地艦というと、昨年から西太平洋へやってきているUSS Miguel Kieth (ESB 5)を思い浮かべる方も多いと思います。米海軍は姉妹艦の遠征海上基地艦USS Hershel "Woody" Williams (ESB 4)を第6艦隊の受け持つヨーロッパ・アフリカ地域に派遣しており、各国と共同訓練を行いながらアフリカ大陸一周するなど、特にアフリカ各国との国防当局間の関係構築に努めてきました。例のレドームはUSS Hershel "Woody" Williamsが搭載しているものと非常によく似通っていたのです。そのうえ、このレドームはUSS Miguel Kiethには搭載されていないことも興味深い点です。

 USS Hershel "Woody" WilliamsとUSS Higginsの共通点を考えたときに浮かんだのが、Aerosondeという小型無人航空機(SUAS)の運用実績でした。USS Higginsは7月4日にヘリコプター甲板に発射回収装置を置いてAerosonde SUASの運用を行った様子の写真が公開されました(VIRIN: 220704-N-HP061-0120)。USS Hershel "Woody" Williamsは2020年9月25日付で大西洋にてAerosonde SUASを運用する様子の写真が既に公開されていました(VIRIN: 200925-M-JH926-032)。

USS Higginsで運用されるAerosonde SUAS (VIRIN: 220704-N-HP061-0120)

 さて、次に改めて艦艇でAerosonde SUASを運用した実績を調べてみると、USS Gunston Hall (LSD 44)が2018年夏の展開で運用した(VIRIN: 180726-N-GX781-0005)ことがわかりました。そこで前後の日付で公開されている写真を漁ると、同じアンテナの搭載が確認できました(VIRIN: 180904-N-GX781-0029)。ちなみに2014年当時の写真(VIRIN: 141002-N-BD629-218)にはこのレドームは見られませんでした。

USS Gunston Hall (LSD 44)上のレドーム (VIRIN: 180904-N-GX781-0029)

 さて、当初明後日の方向へ行きかけた推測ですが、穴の開くほど広報写真を見つめていたおかげでなんとか軌道修正できたようです。これを踏まえると、Textron Systems社の4月4日のプレスリリースにある内容が該当しそうです。曰く、ミサイル駆逐艦2隻へのAerosonde SUASのインテグレーションを行い、運用に成功した、というものです。この2隻がUSS Higgins (DDG 76)とUSS Milius (DDG 69)だったわけです。

www.textronsystems.com

 Textron Systems社のプロダクトにあるAerosonde SUASのページを覗くと、プロモーションビデオの中にある洋上での運用試験でOSVの甲板に乗せているコンテナの上のレドームが少なくとも外観は一致します。特にPVの最後にはレドームの整備用ハッチが大写しになり、これも一致することが確認できます。

youtu.be

Aerosonde SUASの船上運用の様子。コンテナ上のレドームに注目。PVよりキャプチャ。

Aerosonde SUASの船上運用の様子。手前のレドームに注目。PVよりキャプチャ。

 

横須賀DDG、要注目では!?(今更

 以上、今回の調査からは新しいレドームはどうやらAerosonde SUASの運用のために設置されたらしい、という結論が導かれます。このアンテナを搭載したミサイル駆逐艦は他に記憶がなく(100%確認できているわけではないけれど)、横須賀配備艦が選ばれてミサイル駆逐艦の中でも特徴的なSUASの運用能力を得たとみられることは非常に興味深いことです。その上、上掲のUSS Higginsで運用した際の写真を見ると、Aerosonde SUASはIMSAR社のNPS-3レーダーを機体下に吊るしていることが確認でき、目標によるものの海上目標は35.5海里の距離から探知できるとメーカーは売り込んでいます。SARや移動目標検出による探知も可能とされており、センサーボールだけでなくRFによる広域捜索が可能になります。

www.imsar.com

 特に以前から運用されてきた水陸両用戦を主眼に置く大型艦からミサイル駆逐艦、それも航空機格納庫を持たないフライトI/II艦へ運用プラットフォームの幅を広げたことは特筆に値するでしょう。横須賀はSLQ-59の配備(以前に書いたのでよろしければ)や最近はレーザー兵器ODINを搭載したUSS Dewey (DDG 105)の配備(以前ry)といった特徴的な能力を持つ艦が配備されてきました。

orca-oruka.hatenablog.com

orca-oruka.hatenablog.com

 SUAS運用DDGと、特にUASのISRを妨害するためのODIN搭載DDGがともに配備された横須賀となりますが、洋上におけるSUASの運用、あるいは水陸両用戦に絡んだSUASと連携した水上戦闘艦の運用といった観点で、今後どのようにコンセプトが検証あるいは開発されていくのか非常に興味深い点です。

 昨年、自衛隊のスキャンイーグル 1機が種子島沖で喪失した事故が報道されました。事故は令和3年度自衛隊統合演習の対艦攻撃訓練を行う中で発生したものとされています。島嶼部における洋上飛行を含むSUASの運用を想定する中で、米軍と連携しながら運用を洗練させていくことが望まれるでしょう。