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【盛夏のハワイ写真録】太平洋へやってきたSLQ-62【その1】

 この夏、ハワイ近海で行われたRIMPAC 2022とそれに前後して実施された米海軍をはじめとする各国海軍のさまざまについて、短いものを今回から数回かけて追っていこうと思います。まず1回目はSLQ-62の海上試験についてです。

 

SLQ-62とは

 SLQ-62は特にロシアの対艦ミサイルの脅威に対抗するため、米海軍の一部の艦艇に配備されている電子戦装置です。この一部の艦とは欧州配備のDDG (FDNF-E) で、スペインのロタ海軍基地に基本的に4隻が配備されています。SLQ-62は"Transportable EW Module-Speed to Fleet"と呼ばれ、艦への設置が簡便であることが知られています。このことは、今年を含むこれまでのRIMPACでもたびたび示されてきたことです。

USS Arleigh Burke (DDG 51)のSLQ-62 (VIRIN: 210927-N-N0901-1099)

 現在、FDNF-EとしてはUSS Arleigh Burke (DDG 51), USS Roosevelt (DDG 80), USS Bulkeley (DDG 84), USS Paul Ignatius (DDG 117)の4隻が前方展開しています。以前はUSS Carney (DDG 64), USS Ross (DDG 71), USS Donald Cook (DDG 75), USS Porter (DDG 78)の4隻でしたが、今年ついに4隻すべてが交代しました。現在の前方展開艦にはすべてSLQ-62は載せられていますし以前の前方展開艦も配備時はすべて載せていましたが、本土に帰ってからは速やかに撤去されているようです。

 このSLQ-62はFY2013 (2013予算年度)からNRL (Naval Research Laboratory)による開発が始まり、米海軍の電子攻撃能力のギャップを埋める必要性から生まれました。すなわち、電子攻撃能力を持たせるSLQ-32(V)7開発プログラムでは直近の脅威に対応できないことが当時問題視されました。その結果として2014年4月には早くもUSS Donald Cookへの搭載が確認できます。一方で開発と改良は続き、FY2017にはアップグレード予算が計上されています。

 これらに関連してSLQ-62は海上試験も行ってきましたが、ここで重要な役割を果たしたのが夏のハワイ近海でした。2014年夏にはUSS Spruance (DDG 111)、2016年夏にはUSS Pinckney (DDG 91)がそれぞれSLQ-62を一時的に搭載して運用を行っている様子が(RIMPACで広報が盛んなこともあって)確認できます。一方で、私の観測範囲では2018年および2022年には見つけられていません。

RIMPAC 2014にて、USS Spruanceに搭載されたSLQ-62 (カナダ海軍)

youtu.be

RIMPAC 2016にて、USS Pinckneyに搭載されたSLQ-62 (VIRIN: 160715-N-LI612-116)

 このときよく行われているのが、対艦ミサイルの誘導制御部をエミュレートするポッドを搭載した航空機を用いた試験です。NRLはこのポッドも開発しており、改修を受けたリアジェットに懸吊して運用されます(ちなみにVertex Aerospace社のサポートが多い)。

RIMPAC 2016にて、USS Pinckneyの近く低空を航過するポッド装備のリアジェット (VIRIN: 160715-N-LI612-116)

 

今年の夏は...?

 今年の夏は見つかりました。しかも特別なことに2隻が搭載していました。これは今まで見られなかったことで、各艦のSLQ-62間の干渉の確認、または協調した動作の確認を行った可能性もあります。というのも、米海軍は電子戦領域における艦艇間の協調した交戦について予てから研究しており、TEWM (TEWM-STFとは書かれていなかったことに注意)に"Cooperative Noise"と書かれた動作モードの存在を示唆するUI画面がSSC Pacificのスライドに掲載されたことがあったのです。STFは異なるモノではあるものの、同様のコンセプトに基づいた開発がなされてもおかしいものではありません。

 搭載艦はUSS William P. Lawrence (DDG 110)とUSS Spruance (DDG 111)の2隻でした。興味深いことにこの2つのアンテナはいずれもすでに確認されている形状をしているものの、同じものではなく異なるサブタイプとみられるものでした。これらは7月中には外されてしまったようですが、何が行われていたのか、今後情報が公開されるか興味深いです。

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USS Spruanceに搭載されたSLQ-62 (VIRIN: 220711-N-PE973-1101)

 

 

SLQ-62については以前まとめているのでご興味のある方はどうぞ

orca-oruka.hatenablog.com