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米海軍欧州派遣艦が装備する不詳機器の追跡

※リンク先にPDFファイルが多いので注意

 

米海軍欧州前方展開部隊の追加装備

 米海軍は欧州・北部アフリカを主眼として欧州前方展開海軍部隊(FDNF-E)艦艇をスペイン・ロタ基地に配備している。2021年3月現在、配備艦はUSS Ross (DDG 71)、USS Donald Cook (DDG 75)、USS Porter (DDG 78)、USS Roosevelt (DDG 80)のアーレイ・バークミサイル駆逐艦4隻である。FDNF-Eとしては初となるフライトIIA艦のUSS Rooseveltは昨年USS Carney (DDG 64)と交代する形でロタに配置替えとなった。

 

 欧州配備艦はSeaRAMを装備している点など特徴的であるが、さらに観察するとブリッジウイングに見慣れない機器が設置されていることがわかる。櫓状の構造の中と上に何やら機器がマウントされており、両脇に横に距離を置いて双眼鏡のように円柱状の物体が並んでいるのが特徴的である。これはいったい何だろうか。

 

USS Carney (DDG 64)

USS Porter (DDG 78)。SATCOMアンテナ左に見えている櫓とマウントされている機器に注目。

 

  この機器はFDNF-E艦には装備されているのに対して、他の地域の艦艇では試験等を除いてほとんど見られない。まずは欧州配備艦の装備時期についてそれぞれ確認していく。USS Donald Cook (DDG 75)は2014年2月にロタへ母港を移した。2月(VIRIN: 140201-N-KE519-015)および4月(VIRIN: 140421-N-KE519-007)を見比べると到着直後に追加していることがわかる。

 

[追記: 2021.9. 27]

 なお、USS Donald Cook (DDG 75)は前方展開を終えて2021年7月にフロリダ州メイポートへ移ったが、同地を母港とするUSS Delbert D. Black (DDG 119)のFacebook投稿を参照すると、USS Donald Cookは入港時には既にこの機器を撤去しているようだ。

 

 USS Ross (DDG 71)はFDNF-Eとして2014年6月にロタへ到着した。3月(VIRIN: 140316-N-WX580-006)および8月(VIRIN: 140816-N-IY142-548)からわかるようにロタ配備にあたって新しく装備している。

 

 USS Porter (DDG 78)は2015年4月に到着した。4月(VIRIN: 150430-N-VJ282-296)および7月(VIRIN: 150731-N-ZZ999-002)から、到着後の追加装備が確認できる。

 

 USS Carney (DDG 64)は2015年9月に到着した。9月(VIRIN: 150925-N-XG464-039)と12月(VIRIN: 151229-N-FP878-035)から、同様に移転直後に追加装備している。

 

 USS Roosevelt (DDG 80)は既に述べたように初のフライトIIA艦となり、従来この機器が設置されていたブリッジウイング後部はSPY-1レーダの搭載位置上昇に伴い幾分高くなっている。そのためどのように設置されるのかは興味深い点であった。結論から述べると、(少なくとも外観上)従来と全く同じ機器は設置されなかった。ただ、従来のものと部分的に似通っており、おそらく改良型にあたるのだろう。全体として従来よりもRCS低減を意識したと思われる外観である。ロタへ2020年5月(VIRIN: 200516-N-CE622-0019)に移ってから設置前に演習や展開をこなし、設置は12月に確認された(VIRIN: 201217-N-KH151-0044)。SPY-1レーダ上方、衛星通信アンテナレドーム左を注視されたい。また、Facebookページには後ろ側が写り込んだ画像が投稿されている。

 

FDNF Ships at NAVSTA Rota Decorate for the Holidays

USS Roosevelt (DDG 80)。足場が重なって見えにくいが、 SPY-1レーダ上に注目。

 

 また、USS Arleigh Burke (DDG 51)は派遣前であるが、既に同様の機器を装備している(VIRIN: 201218-N-OI940-1069)。これも見えにくいがよく見ると円柱の間の部分正面がUSS Carney以前とは異なり、USS Rooseveltと同じく平滑な平面であるように見える。これもUSS Roosevelt以降で改良型に変更になったと推測する理由の一つである。この写真では平面アレイアンテナのような、あるいは他に電子機器を収める筐体のような機器が櫓に追加でマウントされているようにも見えるが、詳細は不明である。余談ではあるがUSS Arleigh Burkeは後部CIWSをSeaRAMに変更しておりヨーロッパ派遣は近いと思われる。

 

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USS Arleigh Burke (DDG 51) (米海軍)

 

[追記: 2021. 04. 23]

 2021年3月26日、USS Arleigh Burke (DDG 51)はロタへ向けてノーフォークを出港した(DVIDS)。以前から確認していた通り、既に搭載済みである。ロタへは4月11日に入港し、この機器も広報写真(VIRIN: 210411-N-KH151-0013)に写っている。

 

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ロタに入港するUSS Arleigh Burke (DDG 51) (米海軍)

[追記: 2021. 12. 15]

 USS Arleigh Burke (DDG 51)搭載の正面。USS Roosevelt (DDG 80)搭載の空中線によく似ている。VIRIN: 210927-N-N0901-1099

 

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正面 (米海軍)

 

[追記: 2022. 05. 02]

 USS Paul Ignatius (DDG 117)がロタへの配備のために4月27日、メイポートを出港した。USS Paul Ignatiusは2022年3月15日付けの写真(220315-N-GW139-1174)でSLQ-62の搭載が確認されており、2022年に入ってから搭載されたと考えられる。

SLQ-62を装備したUSS Paul Ignatius (米海軍)

 現在ロタ配備となっている艦の配備期間はUSS Ross、次いでUSS Porterが長い。ここで2021年3月時点の艦艇整備計画を参照すると、USS Rossは2022年7月から、USS Porterは2023年1月から長期の整備(EDSRA)が計画されている。また本国ではUSS Bulkeley (DDG 84)がSeaRAMを搭載しており(SLQ-62は非搭載)、今回のUSS Paul IgnatiusはUSS Rossと交代し、おそらく今年下半期のUSS Bulkeley展開でUSS Porterが帰国することになると予想できる。

[追記以上]

 

[追記: 2022. 05. 25]

 USS Bulkeley (DDG 84)へのSLQ-62の搭載を5月21日付の写真で確認した(VIRIN: 220521-N-TC847-002)。先般の追記の通り、近くロタ配備になると思われる。

SLQ-62を搭載したUSS Bulkeley (米海軍)

 

[追記: 2022. 08. 15]

 USS Bulkeley (DDG 84)はロタへ母港を移すため、8月4日にノーフォークを発った。DVIDSの記事では、今後のFDNF-E水上艦艇をUSS Arleigh Burke (DDG 51), USS Roosevelt (DDG 80), USS Paul Ignatius (DDG 117)に加えて4隻、と表記しており、すなわち4隻が完全に入れ替わることになる。なおUSS Bulkeley (DDG 84)がSLQ-62を搭載していることは、ここでも写真で確認できる。

 

[追記以上]

 

 この機器の正体について、Twitter上でNavy-TAO氏(Twitter: @W_ChiefGunner)が主に欧州配備艦の装備という点からAN/SLQ-62である可能性を提示した。

このツイートに興味を惹かれて調べたところ、2017 NRL Reviewの可搬型電子戦モジュール(TEWM)の『特殊な型(special variant)』の機械設計を主導した方の紹介で写真に一緒に写っている機器が本稿で取り上げた機器と同じものだった。さらにAN/SLQ-62に関わっているという方の紹介にも写り込んでおり、これも上記の説を非常に強く支持するものである。

 

 

AN/SLQ-62とは

 FDNF-Eは米水上戦闘艦艇部隊にとって地理的に対ロシアの最前線の一つと言える。ロシアは中国と並んでいわばハイエンドの仮想敵であり、その強力な対水上戦能力への対応は不可欠である。

 

 もし実際に攻撃された場合、対艦ミサイル防御ASMDの手段はハードキルとソフトキルに大別され、その手段としてAN/SLQ-32電子戦装置は米海軍で広く採用されている。SLQ-32シリーズは海上電子戦改善プログラムSEWIPでブロック管理によるアップグレードを行っている。ブロック1 、2、3と分割して(ブロック4はFY 2020資料でRF領域からIR/EOへ拡張するものとして翌FY 2021から開始する旨記載されたが、FY 2021資料では削除された)開発、実装していく計画である。なお、ブロック1はさらに細分化される。ブロック2では空中線およびシステムインターフェースなどの開発が行われる。そして計画ではこれから配備が始まろうというブロック3では従来SLQ-32(V)3、(V)4が提供していたEA(電子攻撃)能力の更新が行われる。このブロック3には派生としてブロック3Tが存在する。ブロック3Tは、急速な脅威増大ペースに対処するために、ブロック3配備前に暫定的に一部機能の提供を行うことを目的としたものである。これらは最終的に米海軍第6艦隊および第7艦隊の緊急作戦要求UON (Urgent Operational Need)に応える形で、ASMD等を目的としてそれぞれAN/SLQ-62 可搬型電子戦モジュール・艦隊早期配備型TEWM-STFおよびAN/SLQ-59 可搬型電子戦モジュールTEWMとして配備された。

 

 ではSLQ-62 TEWM-STFの来歴について詳しく追っていく。TEWM-STFは上記の通り、結果としてSEWIPブロック3の一環として開発された。FY 2012に開始(FY 2011で翌年度開始の計画を提示)したSEWIPブロック3は従来のSLQ-32(V)3、(V)4のEA能力を更新するものであるが、ブロック3はその構成要素として、ブロック1、2の成果だけでなく米海軍研究局ONR (Office of Naval Research)が推進してきたInTop (Integrated Topside)を活用している。従来の艦艇は各通信、レーダ、電子戦システム等が各々独自の空中線を持つため、それらの物理的な干渉、電磁干渉、RCSの増大、あるいは兵站面の負担といった問題が生まれる。これらを統合システム化することで解決を目指す研究がInTopである。ブロック3は当初、FY 2012予算資料の時点ではFY 2013第1四半期にエンジニアリング・製造開発E&MDを開始しFY 2016第2四半期には完了、前後して同年度初頭には低率初期生産LRIPが決定している計画であった。

 

 FY 2012から始まったブロック3では上記の内容に加えてそれまで米海軍研究所NRL (Naval Research Laboratory)が推進してきたTEWM (便宜上、SEWIPに組み込まれる以前のものをTEWM-NRLと呼称)の改修・堅牢化・評価を並行して開始した。TEWM-NRLについて詳しくは後述するが、プラットフォームに依存しない電子戦ペイロードの技術開発と水上艦のアクティブ交戦の分析・モデル化を目的としたものである。このように並行して開発が開始されたのは((部隊からの緊急作戦要求UON (Urgent Operational Need)へ応える必要が生じたためである。ブロック3の一部(のちに3Tとして派生)としてのTEWMは2014年までに限定的な一部能力の提供を目指すもので、当初からブロック3ではハイエンド脅威拡大に時間的に間に合わないと認識されていたことがわかる。

 

 翌FY 2013でTEWMからさらにSpeed to Fleetが派生し、実運用に適した設計への改良がさらに加速された。前述のTEWMの『特殊な型』はこれを指している。STFは当年度中に最初の2ユニットの製造まで行うように計画された。ただ、結果的に開発フェーズはFY 2015の第3四半期まで続いており、艦への装備後に段階的に能力付与を行ったと思われる。また、TEWM-STFについてはFY 2017でアップグレードの開発を行っている。このアップグレードは詳細は明らかではないが後述する。

 

 先行研究を生かす形でブロック3プロジェクトは開始されたが、最終的にE&MDはFY 2020第3四半期まで遅延したとされている。TEWMおよびTEWM-STFは若干の遅れはありつつも早期に目的を達し、2010-2020年代のギャップを補填する役割を果たしていると言えるだろう。

 

 RDT&E予算資料に記されたSEWIPブロック3項目内TEWM関連の開発・試験作業のおおまかな線表をまとめ、次に示す。

 

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RDT&E予算資料から、SEWIPブロック3/3T TEWM開発試験線表を作成。

 

 ここでTEWM-NRLについて確認しておく。前述の通りTEWM-STFが派生したTEWMはTEWM-NRLを起点としたプロジェクトであり、技術およびコンセプトの影響を色濃く受けているだろう。2009 NRL Reviewで紹介されているため、これをもとにまとめる。TEWM-NRLは既に行われていた無人艇群への電子戦能力付与を念頭に置いた研究(Unmanned Sea Surface Vehicle Electronic Warfare)から、その適用対象を無人艇に限定せず多様なプラットフォームで同様に機能できるEWペイロードとして発展させたものだった。

 

 この無人艇搭載装置の研究ではHS-USSVという無人艇にEWモジュール(以降、USSV-EWと呼称)を搭載し、効果的にASMD能力を向上させることが目的であった。水上無人艇というプラットフォームの選択は無人機/無人艇を運用できるLCSを念頭に置いたものでもあり、また航空機やNulkaのようなプラットフォームと比較してより長時間持続的に展開できる点も好ましかった。この電子戦装置はONRの先進多機能RFコンセプト将来海軍能力プログラム(Advanced Multifunction Radio Frequency (RF) Concept Future Naval Capabilities program)で開発されたDRFMを用いるEAシステムを採用しており、これはDFによって複数の脅威を同時に認識し、標準的なジャミングに加えてリアリスティックな振幅・ドップラー変調を示す高解像度の偽目標を(敵レーダシステム上に)多数生成し真目標を識別・追尾できなくなるよう機能すると説明されている。また、この偽目標生成と雑音妨害のような異種の妨害を組み合わせた複合的な妨害波の生成も可能とされている。制御はSIMDIS可視化ツールに開発された双方向EWモジュールによる。これは複数のEWペイロードを1カ所から遠隔で監視・制御し、既知の放射源に対する先制妨害、指定したエリアに侵入した既知の放射源に対して自動で妨害を行う機能、あるいは探知したRF信号を視覚的にわかりやすくオペレータに表示し状況認識を補助する機能などが挙げられている。

 

 この研究成果を生かしてTEWM-NRLでは対艦ミサイル防御と監視対抗(counter surveillance)を目的として、プラットフォーム主体ではなく能力/モジュール主体の電子戦システムの開発を行うことでネットワーク化された分散EWシステムの実現を目指した。TEWM-NRLではネットワーク化されたグループは1カ所の妨害制御ステーションJCS (Jammer Control Station)で集中して制御できるように設計されており、USSV-EWと同様の機能を備えていた。詳しくは後述するが、TEWM-NRLはRIMPAC 2008でUSS Chung-Hoon (DDG 93)に搭載されて海上試験を行った。

 

 続いて(文書上の)SLQ-62の特徴について掘り下げる。一部既に紹介しているが、FY 2016予算資料を参照するとTEWM-STFは電子戦能力ギャップへの対応として、終末誘導段階にある広範な対艦ミサイルシーカと交戦するための装備とされている。あくまで推測に過ぎないが、TEWM-STFの両脇の円柱はその広帯域性から電子戦装備にもよく用いられるスパイラルアンテナであるようにも見えるが詳細は不明である。

 

The TEWM Speed to Fleet effort develops the TEWM system capability for engaging a wide range of anti-ship missile seekers to address the broader EW capability gap.

 

 また名称にも含まれているがtransportable(可搬)であり、運用能力の付与が比較的容易であることも特徴の一つである。実際にUSS Donald Cook、USS Ross、USS Porter、USS Carneyの4隻はすべてロタに到着してから3ヶ月以内に装備し、作戦航海に出られていることでも実証していると言えるだろう。USS Rooseveltで装備が比較的遅かったのは改良型の開発生産の問題なのか、運用ローテーション上の都合なのかは不明である。

 

 これに関係して、TEWM-STFは運用上の要求に合わせて複数の「コピー」を迅速に製造できるとしている点も特筆に値する。短期間に設置して作戦可能な状態にできるという点と合わせて、必要が生じたときに装備化までのリードタイムを大幅に短縮できる。この点からもTEWM-STFハードウェアはCOTS品を主とした設計を行っていることは確実だろう。

 

 FY 2013予算資料では、Link 16コマンドプロトコルに準拠する旨も示されている。開発経緯を遡ってみるとUSSV-EWおよびTEWM-NRLはともにデータリンク(それぞれ無人システム統合アーキテクチャJAUS (Joint Architecture for Unmanned System)を通じて制御ネットワーク、海上の実証は明言されていないが『利用可能なネットワーク』を利用)による1つのコンソールからの遠隔操作・集中制御を行うものであり、推測に過ぎないが、TEWM-STFでもLink 16ネットワークを通じて同様に複数隻で収集情報共有・制御・協調を行うコンセプトを持っている可能性がある。

 

It also implements a Navy link-16 network command protocol efficiently allowing use on broad class of ships.

 

 

試験の様子から

 TEWM-STFと思われる機器の試験が行われている様子もリリースされている。ここではTEWM-NRLおよびTEWM-STFの試験等の様子について見ていく。

 

 2009 NRL ReviewではRIMPAC/Trident Warrior 2008においてASMシミュレータを装備したリアジェットがUSS Chung-Hoon (DDG 93)の近くを飛行する様子が示されている。この航空機はおそらくVertex Aerospace社のリアジェットであり翼下にポッドが追加されていることが見て取れる。同社はポッドを懸架できるよう改造が施された航空機を運用しており、RIMPAC 2008でもASMシミュレータを懸架して試験を支援したものとみられる。これはTEWM-NRLの試験が行われていた時の撮影と思われる。RIMPAC 2008ではTEWM-NRLはわずか30分で甲板への設置が完了して2時間で完全に運用可能な状態になったといい、transportable (可搬)たる部分を実証している。TEWMでは別のプラットフォームに設置されたモジュール同士をネットワーク化しJCSから統合的に運用すると述べたが、2009年時点ではこれは海上での実証には至っていないようである。

 

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RIMPAC 2008にて、USS Chung-Hoon (DDG 93)とASMシミュレータを搭載したリアジェット (NRL)

 

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RIMPAC 2008にて、USS Chung-Hoonに設置されたTEWM-NRL (NRL)

 

 RIMPAC 2010ではTEWM-NRLはUSS Sampson (DDG 102)に搭載された。ONRのScience and Technology Strategic Plan 2012によると、RIMPAC 2010および2012でTEWM(これはおそらくTEWM-NRLを指す)の能力の実験実証が行われ、複数のTEWM間での連携も行われた。

 

 また、FY 2016予算資料によるとRIMPAC 2014ではTEWM-STFの試験が行われたようである。映像資料からはUSS Spruance (DDG 111)へのTEWM-STFの設置が確認できる。

 

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RIMPAC 2014にてUSS Spruance (DDG 111)へ設置されたTEWM-STF。右舷格納庫上に注目。 (カナダ海軍)

 

 RIMPAC 2016でUSS Pinckney (DDG 91)の格納庫上にTEWM-STFを仮設して試験を行っているときの写真(VIRIN: 160715-N-LI612-116)には艦近くを低空で航過する航空機が写っている。これもRIMPAC 2008で撮影されているのと同様、Vertex Aerospace社による試験支援と思われる。

 

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RIMPAC 2016にて、航過するリアジェット (米海軍)

 

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RIMPAC 2016にて、USS Pinckney (DDG 91)へTEWM-STFを設置。"TOWARD ENEMY"との表示。 (米海軍)

 

 RIMPAC 2016におけるUSS Pinckney (DDG 91)の活動は非常に興味深い。ONR Global 2016 Annual ReportではRIMPAC 2016においてEW戦闘管理システムEWBM、NOMAD、NEMESISといったASMD電子戦関連の広範な試験をUSS Howard (DDG 83)、オーストラリア海軍、ニュージーランド海軍、カナダ海軍と共に行ったとしている。参加国に注目すると、これはAUSCANNZUKUS実験アライアンスの枠組みで行われたものだろう。前述の通りFY 2017にはTEWM-STFのアップグレード開発が行われていることや他システムとの連接についても非常に興味深い部分である。オーストラリアはロケットモーター滞空型アクティブデコイNulkaの開発において深く連携していることにも注意したい。

 

 ここでRIMPACから離れて、Northern Edge 2017演習へ目を向けてみる。この演習にはUSS Hopper (DDG 70)およびUSS O'Kane (DDG 77)が参加している。2017NRL ReviewではSLQ-62の関係者がこの演習に参加する旨言及されており、非常に興味深い。

 

 また、SSC Pacificのスライド資料 (URLから察するに2017年版か?)でEWBMのコンセプト紹介としてTEWM(これがどのタイプを示しているのかは不明)、SLQ-32、各種デコイ発射機を横断的に管理し、脅威への対応をリコメンドする機能を示すUI画面が掲載されていた。これはNorthern Edge 2017の参加DDG 2隻に加えてUSS Decature (DDG 73)が画面上に表示されているが、演習との関係は明らかではない。またこの画面上の表示には、TEWMについて「COOPERATIVE NOISE」という動作モード(妨害技術)の表示が含まれていた。

 

 

[追記: 2021. 12. 15]

サブタイプについて

 最後にSLQ-62のサブタイプについて確認しておきたい。冒頭、各艦の装備状況について述べた部分でも触れたが、SLQ-62と思われる機器には外見上の差異がありサブタイプと考えられるものが数種類存在し、同じ艦があるサブタイプから別のサブタイプへ変更したこともある。

 

 具体的にはサブタイプは少なくとも4種類は確認できており、ここでは仮に確認され始めた時期によってI型~III型、それからIII'型と呼称することにする。ただ、ここで述べるものはあくまで空中線部の変更が外見からでもわかるものであり、一部機器の変更やソフトウェアのアップデートは把握できないことは注意すべきである。

 

 まず当初から装備していたものをI型とする。これは2014年には確認でき、2014-2015年当時ロタ配備の4隻やRIMPAC 2014およびRIMPAC 2016でも運用されている。ただ、2017年頃から当時ロタ配備の4隻は徐々に別の空中線部に置き換わっており、おそらく、これは開発史でも述べたFY2017アップグレードにあたるのだろう(と言うのも、予算資料(RDT&E BA 5)には"TEWM STF Primary Hardware Development"という項目がある)。また、USS Roosevelt (DDG 80)搭載のサブタイプをIII型、USS Arleigh Burke (DDG 51)搭載のサブタイプをIII'型と呼ぶことにする。本来は、以前と同様の大枠に収めればよいIII'型とフライトIIAに合わせたIII型は逆にすべきかもしれないが配備順に従うとこうなるのは仕方がない。とにかく、従来装備品よりも短いタイムスパンでの、ハードウェアの大規模な更新を可能にする調達管理形態であることは特筆に値する。

 

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SLQ-62空中線部のサブタイプ

 

各サブタイプの配備時期



まとめ

  • FDNF-E派遣艦艇はAN/SLQ-62 TEWM-STFを追加装備している。
  • かねて開発されていたTEWMをSLQ-32 SEWIPブロック3に取り込み、ブロック3TとしてAN/SLQ-59 TEWM、さらにAN/SLQ-62 TEWM-STFが開発された。
  • TEWM-STFは短いリードタイムで艦艇へ搭載できる。
  • TEWMはEWBMによって他の電子戦関連装備と共に横断的に管制される。
  • 関連情報およびルーツから、TEWM-STFはネットワーク協調妨害技術を有する可能性がある。

 

 

おわりに、ご挨拶

 文末ではありますが、初めまして。最後までご覧いただきありがとうございました。何となく気の迷いでブログをはじめてみようと思い立ち、物は試しとまずは日本語の情報の少なそうなSLQ-62について漫然と書いてみました。SLQ-62はSLQ-59と比較しても軍事ニュースで大きく取り上げられることも少ないようですが、こうしてインターネット上だけでもそれなりの情報量が散らばっていたものを一部拾い上げてきました。解像度が少しでも高まれば幸いです。これに関する議論も幾分盛り上がることを願い、また、きっかけとなったNavy-TAO氏(Twitter: @W_ChiefGunner)とご友人に敬意を表して初投稿を締めることにします。

 

 一度締めましたが、追記。日本時間3月7日付でThe War Zoneにて私の過去ツイートも取り上げていただいているSLQ-62に関する記事が配信されました。想定脅威など、ここで取り上げていない内容もある興味深い記事ですので是非どうぞ。

Spain-Based American Destroyers Are Sporting This Unique Electronic Warfare System

 

 以上、随時加筆修正を行う。

2021/3/6大幅加筆修正

2021/3/9加筆修正

2021/3/14加筆修正

2021/4/23加筆修正

2021/9/27加筆修正

2021/12/15加筆修正