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米海軍は統合RFシステムの夢を見るか?

 現代の戦場の大きな基盤である電磁波領域は当然ながら各国で重要な競争の対象となり、電磁波を利用し、また敵の利用を阻害する技術が長く研究されています。現在まで発展著しいレーダーも電波通信も電磁波を利用するもので、新しい艦艇には目新しい装置が搭載され、既存の艦には追加装備されている例が多くあります。例えば、米海軍で1980年代までを担ったCharles F. Adamsミサイル駆逐艦と1990年代から現在まで主力となっているArleigh Burke級ミサイル駆逐艦を比較すると、アンテナ数は86%増加していると言います[1](もっとも、全長×全幅で雑に甲板面積を比較すると、これも6割ほどの増加)。同様に90年代と現在のバーク級を比較すると、90年代はすっきりしていたブリッジ上が衛星通信アンテナに埋め尽くされている点が特に目立つでしょうか。

 アンテナの増加は装備品すなわち能力の充実の結果である一方で、それによってデメリットが生じる場合があります。アンテナが近接することによる干渉、アンテナ数の増加によるシグネチャ(RF, IR)の増大、整備所用の増大等がまず挙がることでしょう。米海軍はこれらの問題に、1990年代からかれこれ20年以上取り組んできました。今回はこれらの現在の開発プログラムに繋がる取り組みのうち、いくつかを概観します。

 

RFシステムを統合する: AMRFC

 電磁波を利用するレーダー、電波通信、そして電子戦装置を単一のアンテナと処理装置によって運用するというコンセプトは、90年代には具体性をもって検討が進みました。これらを別々の装置として開発されてきていたわけですが、それぞれの機能を単一の装置に組み込むのは一筋縄ではいきません。ここで求められたのは、電子戦支援(ES)装置として対艦ミサイルの電波シーカーの放射を警戒し、捜索レーダーとしてパルスを発しながら、通信や電子攻撃(EA)のために連続波(CW)を発することのできる単一のシステムでした。

 90年代からのコンポーネント開発は『先進多機能RFコンセプト (AMRFC: Advanced Multifunction RF Concept)』としてひとつに纏まり、一通りの試験がなされたのは2001年のことでした[2]

 AMRFCはレーダー・通信・電子戦(EW)機能を統合したシステムの実証を目的としたプロトタイプです。テストベッドは米メリーランド州のチェサピーク湾西岸にある試験施設(NRL Chesapeak Bay Detachment (CBD))に設置されました(図1)。6-18 GHz (C-Ku帯)を使用し、送受信でそれぞれ1つづつ別々のアレイアンテナを有しています[1]

図1 AMRFCテストベッド[3]

 送信アンテナは256素子のサブアレイ4つからなる1024素子のアレイアンテナであり、サブアレイ毎に割り振ることで4つまで同時にビーム形成が可能です。これらにそれぞれEA・通信・レーダー信号を4つまで割り振ることができ、時分割するとEA信号を8つまで出力することができるといいます。

 受信アンテナは6-18 GHzの周波数範囲内で動作し、128素子のサブアレイを3×3に配置した1152素子と、ESに用いる9素子の電波干渉計からなります。

 EW機能は対艦ミサイルのシーカーの妨害等が想定されており、他の機能と並行したESとEAによる交戦が試験で実証されました。通信機能は見通し線内通信のためのX/Ku帯CDL/TCDLとX帯のDSCS衛星通信、Ku帯の商用衛星通信をサポートしています。電波の発信に関する制限のためにテストベッドでは完全な性能を実証するには至っていませんが、いずれのリンクに関してもアレイの動作については実証されたようです。また送信サブアレイ1つと受信1チャンネルを使用してFMCWレーダーとして機能し、水上目標の探知に用いられます。

 AMRFCの開発で広帯域・多機能に対応するハードウェアの開発と並んで重要であったのが、リソースを各機能に適切に割り振る機能を担うRAM (Resource Allocaation Manager)です。単一のアンテナシステムで多機能を担うため、オペレータの入力から生じる各機能へのリソースの要求の競合を整理する必要があります。AMRFCで開発されたRAMは後続の多機能アンテナシステムの基盤となりました。

 AMRFCは先述のNRL CBDにおける試験の他に、送信アレイだけを実験船に搭載して海上試験も行っています。退役した元砲艇USS Douglas (PG 100)を改造したR/V Laurenにアレイを搭載し、NP-3Dを模擬標的としてEAおよび通信試験を行ったようです[4]

図2 EAアレイ(左)とR/V Laurenへの搭載風景(右)[4]

 同時期(1990-2000年代)にはSLQ-32を代替する電子戦装置としてAN/SLY-2 AIEWS (Advanced Integrated Electronic Warfare System)の開発が行われました。AIEWSはIncrement 1と2に分けられており、Inc. 1ではESに限り、Inc. 2でEA機能を追加する計画でした。二次元アレイアンテナを使用して探知精度と更新レートを向上させ、艦の戦闘システムと高度に統合される計画だったようです。AMRFCとAIEWSはともにGaAs MMICの使用が予定されており[1], [5]、技術的な類似性が見られます。

 

AMRFC Version 2/MFEW

 技術開発において一定の(というよりかなりの)成功を収めたAMRFCでしたが、そのまま実戦配備された艦艇へ搭載とはいきませんでした。しかしAMRFCで示された指針と技術は装備品の開発に活かされることになります。これまでのAMRFCをversion 1として、さらにversion 2 (またはMFEW: Multifunction EW)の開発がなされることが2004年に決定され、FY2005にプログラムが開始されました。これはSLQ-32 SEWIPと、当時DD(X)だったズムウォルト級の電子戦装置への技術移行を目的に行われました[6]。なお、SLQ-32は装備化されてから当時既に30年となり、先述のAIEWSの中止もあり新たな脅威に対処するための改良プログラムSEWIP (Surface Electronic Warfare Improvement Program)が始まりました。

 MFEWはAMRFC V1で開発したRAMに連接されて機能するように設計されているほか、SEWIPへの展開を目的としていることから、既に開発されていたSEWIP Block 1 ESEとして開発されていた処理装置とインターフェースを組み込んでいたと言います[6]

 開発された『先進開発モデル(ADM: Advanced Development Model)』はコンテナベースの筐体で、2007年10月に納入されました。納入後はNRL CBDにてAMRFC V1の上に置かれたり、同地にある船舶の揺動を模した運動をするシミュレータに乗せたりして試験が行われました。その後2008年夏にはUSS Comstock (LSD 45)に搭載され、RIMPAC 08に参加し、TAPA II (Technical Cooperation Program Anti-ship Missile Project Arrangement)でも試験を行ったようです。MFEWで開発された技術はSEWIP Block 2として現在米海軍の水上戦闘艦の多くにバックフィットされつつあります。

図3 NRL CBDの揺動シミュレータに乗せられたMFEW ADMと、AMRFC V1上のMFEW ADM (左下)[6]

図4 SEWIP Block 2で更新された、SLQ-32(V)6のアンテナ[7]

 ところでズムウォルト級の日本語wikipediaを読んだことはあるでしょうか?2023年7月現在は電子戦について

従来のAN/SLQ-32に替えて、米ノースロップ・グラマン社が開発中のMFEW(Multi Function Electronic Warfare)システムを搭載する計画である。

とあります[8]。MFEWとは何ぞやと思われていた方も多いかもしれませんが、このMFEWです。ちなみに2019年版のDOTE年報では、AN/SLQ-32B(V)6搭載とされています[9]

 

InTop INPとEW/IO/Comm ADM

 MFEWの成果が出てきた2008年、InTop (Integrated Topside)として、これまでの単機能の艦載RFシステムを多数搭載するアプローチではなく、多機能RFシステムを艦艇に搭載するための技術開発を行うプログラムが始まりました。これはINP (Innovative Naval Prototype)という、まだ明確に示されていないものの、部隊からの要求が見込まれる革新的なプロトタイプ開発を目標とした枠組みです。InTop INPでは具体的なプロトタイプとして複数のADMを開発しました。このプロトタイプのひとつがEW/IO/Comm ADMです。

図5 InTop INP[10]

 EW/IO/Comm ADMは名前の通り電子戦・情報作戦・見通し線内通信機能を有する多機能RFシステムであり、同時にSEWIP Block 3のための技術評価を行うプロトタイプです[11]。設計は2010年に開始され、遅くとも2014年7月までにはシナリオベースの試験が行われていたようです。ADMはCBDに設置され、AMRFC V1およびV2 (MFEW)と統合して運用されます。

図6 NRL CBDに設置されたEW/IO/Comm ADM (左)、MFEW (右上)、AMRFC V1 (右下) [12]

 送信と受信のアンテナは分かれており、それぞれ2つ計4つのアンテナを1面(1面で90°を担当)に有しC帯からミリ波帯で動作します。AMRFC V1が6-18 GHz すなわちC-Ku帯であったことを考慮すると、特に高周波側に対応周波数を拡張した形になります。これは同時期の米海軍の電子戦装置開発の技術動向に一致します。米海軍はEA能力を付与するSEWIP Block 3の配備が想定される敵の技術開発に遅れる懸念から、主に第7艦隊向けにTEWM (Transportable EW Module)としてAN/SLQ-59を開発しました。これについて中国のYJ-18等の対艦ミサイルのミリ波シーカーに対処するもの、という言及が見られます[13]

 これらの点から、EW/IO/Comm ADMおよびSEWIP Block 3は航空機搭載レーダーとして実績のあるX帯から対艦ミサイルのシーカーとして実績のあるX~K帯、近年利用が進みつつあるより短波長のミリ波帯までの電子戦装置を更新するに至りました。

図7 USS Pinckney (DDG 91)で進められているSLQ-32(V)7 SEWIP Block 3搭載作業[14]

 

InTopのその後

 InTop INPはFY2015でいったん終了(完了しなかった分は一部翌年度に持ち越し)となり、これらの成果は新たにEMC2 INPに引き継がれました。図5のIO/Comm/EWはInTopではADM開発は行われませんでしたが、EMC2でLowRIDRという名前で開発が行われました。LowRIDRはEW/IO/Comm ADMと対になるような、HF~C帯の多機能RFシステムです[15]。これもまたInTopで開発されたRAMを基盤として電子戦・情報作戦・通信・レーダー機能を最適化して利用することを目標としています。

 これらの一連の研究で開発されたADMは、図6でも見て取れるようにNRL CBDにて非常に密接して配置されています。Google Mapの航空写真でも見られるので、撮影日を遡りながら見てみると面白いですよ。

 

 

 

参照

[1] G. C. Tavik et. al. The advanced multifunction RF concept, IEEE Trans. Microw. Theory Tech. Mar. 2005, 53(3) 1009-1020 https://doi.org/10.1109/TMTT.2005.843485.

[2] FY2003 RDT&E, Navy BA 3, Feb. 2002, https://www.secnav.navy.mil/fmc/fmb/Pages/Fiscal-Year-2003.aspx.

[3] 2010 NRL Review, 44 https://www.nrl.navy.mil/News-Media/Publications/nrl-review/.

[4] D.C. Wu et al. At-Sea Test of a Multifunction Transmitter on R/V Lauren, 2000 NRL Review, 115-116, https://www.nrl.navy.mil/News-Media/Publications/nrl-review/.

[5] R. C. Kochanski and B. A. Bredland, Use of AN/SLQ-32A(V) Electronic Support Data for ASCM Engagement and Situational Awareness, Johns Hopkins APL Tech. Dig. 2001, 22(4), 583-587, https://secwww.jhuapl.edu/techdigest/Home/Detail?Journal=J&VolumeID=22&IssueID=4.

[6] G. C. Tavik, N. M. Thomas, III, The Multifunction Electronic Warfare (MFEW) Advanced Development Model, 2009 NRL Review, 157-159, https://www.nrl.navy.mil/News-Media/Publications/nrl-review/.

[7] US Navy, VIRIN: 221003-N-HV010-1190.

[8] ズムウォルト級ミサイル駆逐艦 - Wikipedia.

[9] Ship Self Defense for DDG 1000, Director Operational Test and Evaluations FY 2019 Annual Report, https://www.dote.osd.mil/Annual-Reports/2019-Annual-Report/.

[10] Larry Schuette, Director of Innovation, ONR, “ONR Technology Strategy: Today and Tommorow for PEO-IWS”, https://ndiastorage.blob.core.usgovcloudapi.net/ndia/2011/PEO/Schuette.pdf.

[11] DoD Notice of Intent to Sole Source, N0017317RLL01, 2017, https://sam.gov/opp/11cf0d1645fcfc75de11b7707cc2376b/view.

[12] 2017 NRL Review, 32, https://www.nrl.navy.mil/News-Media/Publications/nrl-review/.

[13] H. Kimura, A2/AD環境におけるサイバー電磁戦の最新動向(後編), 月刊JADI, Jul. 2016, https://e-nsr.com/publications10.html.

[14] USS Pinckney Facebook, https://www.facebook.com/profile.php?id=100064789593685.

[15] DoD Electromagnetic Maneuver Warfare Command & Control (EMC2) Low-band Radio Frequency Intelligent Distribution Resource (LowRIDR), N00014-16-R-RFI4, 2016, https://sam.gov/opp/31cdcdf4a9e63797da257b10721451cd/view.

米海軍は無人機をどう使うのか: UxS IBP 23 その4

 前回に続き、UxS IBP 23ネタです。ここでは、その1でフォーカスした水上標的転用自爆USVについてもう少し詳しく見ていきます。

orca-oruka.hatenablog.com

 当該標的は4MTD1833という機番を付されているようですが、SDSTは少なくとも5隻参加しています。その1でも書いた通り4MTD1833は爆薬を積んで自爆することで非自走水上標的を攻撃したものとみられます。4MTD1833は艇首に複数の突起が見られ、これは標的との接触を検出するためのセンサでしょう。また、マスト中段に他の艇には無いセンサを積んでいることも特徴的です。座席をくりぬいて爆発物の搭載スペースを確保しているDIY感あふれるみてくれが素敵(?)

SDST転用の自爆USV (VIRIN: 230503-N-XL376-2081)

 さてこの自爆USVの攻撃の様子と思われる映像がShield AI社のTwitterアカウントに投稿されました。30秒頃からの爆発のシーンで、よく見ると爆発の直前に比較的大きなバージ(標的)に小さな点(おそらく自爆USV)が接近し、重なる様子が見て取れます。

 

米海軍は無人機をどう使うのか: UxS IBP 23 その3

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 前回(↑)前々回とは変わって、人が乗ったものについても紹介しましょう。

 一つ目はSeahawk。とはいってもヘリコプターではなく無人水上艦です。しかし今回は数人が乗り込んでいました。その目的は無人航空機V-BATの運用のようです。Seahawkは三胴のひとつひとつは非常にスリムな形状をしているため大型艦の飛行甲板のような広いスペースは取れませんが、ここで離着艦できるのならば運用可能な艦船はかなり多いことでしょう。

 また、艦中央部にV-BATのためと思われるコンテナを搭載しており、いつもの通信アンテナ盛り盛りの様子とは大きく雰囲気が変わっているのも見ていて面白いですね。

Seahawk艦上で準備されるV-BAT (VIRIN: 230503-N-DN347-1032)

 また、CCA (Combatant Craft Assault)と呼ばれる小型艇に乗った特殊部隊がRQ-20 Pumaを飛ばす様子も公開されています。こういった小型艇が基地から離れて運用するにはドックを有する揚陸艦やESBのような大型艦が良いコンビになるでしょう。

CCAから飛び立つRQ-20 (VIRIN: 230503-N-GR718-1093)

 そして揚陸艦とコンビになり得るアセットの登場はこれだけではありませんでした。前回紹介したT38 Devil Rayですが、サンディエゴでなにやら曳航している様子が撮影されました。

 ここで曳航されているのは、UUVとそれを載せる運搬用の「そり」です("sled"と呼ばれる)。このそりはLTV-38 (Large Training Vehicle)というUUVを揚陸艦から発進させるのに使ったものによく似ています。しかしこのUUVはLTV-38ではなく、何なのかというとおそらく2015年に撮られたというこれなのでしょう。

USS San Diego (LPD 22)のドックで"sled"に乗せられているLTV-38 (VIRIN: 210708-N-AJ460-585)

2015年、NUWC Keyportの試験に供されたというLDUUV (VIRIN: 210603-N-CD227-003)

米海軍は無人機をどう使うのか: UxS IBP 23 その2

orca-oruka.hatenablog.com

 既に複数種の無人水上艇の写真が公開されているので、前回(↑)に引き続きUSVの話題です。

 まず最初にMAPC社のGARC (Greenough Advanced Rescue Craft)ベースのUSVです。SimradのHaloシリーズのレーダーとFLIRのM364C系?のカメラが見て取れます。GARCは"very small"のクラスとしてUSVロードマップに登場しており、2019年にはLCSの対機雷戦モジュール運用においてUSVと母艦の間の通信を中継するパラフォイルを曳航する想定で試験を行っていました。しかし当時はUSV自身のセンサはこれほど充実したものではありませんでした。

航行する無人GARC (VIRIN: 230503-N-AV223-1094)

USVロードマップ。左下に注目 (NAVSEA)

www.navsea.navy.mil

 

 続いてT38 Devil Rayです。これはUxS IBP 21にも参加してサンディエゴとサンクレメンテ島の間を航行しましたが、今回は徘徊型弾薬SwitchBlade 300を遠隔発射したようです。上から撮られた写真を見ると、後方に太陽電池の乗ったタンカラーの箱が見えます。発射時の写真を見るに、どうやらこの箱のふたが開いて内部に保管している弾薬が発射される仕掛けでしょうか。すなわちMulti Pack Launcher (MPL)を搭載しているのでしょう。他にもSeaFLIR 280らしいセンサ(IBP 21では見られなかった)や、前部("49"と書いてある上あたり)にはStarlink Maritime用のように見えるアンテナを装備している点も興味深いです。

Switchblade 300を発射するT38 Devil Ray (VIRIN: 230505-N-GR718-1037)

上から撮られたT38 Devil Ray (VIRIN: 230503-N-DN347-1274)

米海軍は無人機をどう使うのか: UxS IBP 23 その1

 米海軍・太平洋艦隊がUxS IBP 23という実験を始めました。これはUnmanned Systems Integrated Battle Problem、すなわち無人システムを戦闘に統合していくうえで生じる問題を明らかにし、戦力化することを目的としたものです。一昨年にUxS IBP 21として始まり、昨年は実施されなかったので今回は2回目です。前回はTwitterアカウントを開設して広報していたのですが、今年はどうするのか地味に気になっています。

twitter.com

 現在始まっているのが23.1と呼ばれるフェーズで、長距離火力、監視、偵察、指揮統制、情報の再構成に焦点を当てているものと説明されています。

www.cpf.navy.mil

 これまでにいくつかの興味深い写真が公開されているので紹介します。

 まずはこちら。4隻の小型の無人水上艇が円を描きながら等間隔に運動しており、複数のUSVを協同して運動させる能力が示されています。

等間隔に航行し円を描く4隻のSUSV (VIRIN: 230502-N-UN585-1775)

 さてこのUSV、アップになっている写真を見ると、どうやら米海軍の自走海上標的Ship-Deployable Surface Target (SDST)のようです。これは水上バイクを遠隔操作することで水上標的として使用するものです。もう一点気になることとして、青い箱が載せられています。これは昨年のRIMPAC 2022において他国艦艇を含めて取り付けられた、イリジウムトラッカーのテレメトリシステムと思われます。無人艇の運動を詳細に評価するために取り付けられたのでしょう。

当該SUSVのアップ。青い箱が見える。 (VIRIN: 230502-N-UN585-1934)

RIMPAC 2022にて、フランス海軍艦艇FS Prairial (F731)に取り付けられるITU (VIRIN: 220629-N-UP244-2032)

 さらにSDSTに爆発物を搭載している様子、そしてSDSTが衝突・爆発した後と思われる標的の写真も公開しています。ウクライナは小型USVに爆発物を搭載して自爆USVとして運用したようですが、米海軍も同様の攻撃が技術的に可能であることは示されました。

 ちなみにこの標的の標的となったものは各種非自走水上標的のベースとして使われる双胴のはしけを利用したもので、前回のUxS IBP 21ではこれにレーダーやレーダーリフレクターを載せたものがUSS John Finn (DDG 113)から発射されたSM-6の標的となりました。

 

SDSTに爆発物を搭載する様子 (VIRIN: 230503-N-AV223-1136)

爆発を受けた後と思われる標的 (VIRIN: 230503-N-AV223-1142)

 その1はここまで、面白い無人機が多く出てくるでしょうから、続編はたぶんあります。

米海軍ソノブイ予算 FY24

 例によって、FY24のソノブイ予算について予算資料を確認します。同じような話を既に2回書いているので、今回は備忘録的性格を強めてかなり端折って書きます。

 

orca-oruka.hatenablog.com

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 FY24の資料はここからどうぞ。ソノブイはOther Procurement, Navy BA 3です。

www.secnav.navy.mil

 FY24のソノブイ購入予算の要求額は3.01億ドル。過去最高ではないですが、FY20の3.05億ドルに続いて2番目になるか、という規模です。これは今年の要求額が大きいだけという話ではなく、ソノブイ購入額は近年急激に増加しています。FY20-24の5年間の平均は2.96億ドルであり、これは10年前すなわちFY10-14の1.03億ドルの実に3倍に達しようかという額です。

各年のソノブイ購入合計額と5年平均額

 これらの内訳をみていくことにしましょう。FY24は金額ベースではSSQ-125が3割を占めているものの、数量ベースで見るとDIFAR SSQ-53が7割5分を超えます。これは現在のソノブイ調達の課題をよく表している数字です。すなわち、P-8Aへの機種更新に伴うソノブイ使用数の増加とMultistatic active coherentの高額なソノブイによる予算の膨張/圧迫です。

ソノブイ調達の推移(金額ベース)

ソノブイ調達の推移(数量ベース)

 各ソノブイの単価の推移も同様に見てみると、MAC-ADARペアのお高いところが浮き彫りになります。お高いだけならまだしも、価格の変動も洒落になりません。FY23より低減できそうな点は良し。一方でDIFARとDICASSは流石の安定感を見せてくれます。

ソノブイ単価の推移

 さて、数量ベースで見るとSSQ-125の調達がFY22, FY23と非常に少数にとどまっていましたが、FY24は増やすようです。これがどういう意味を示すか推測するには、在庫量を推測するのがよいでしょう。

 詳細は以前書いたので省略しますが、仮にSSQ-125の使用期限を納入後3年、4年、5年とし、使用を考慮しない場合の在庫量をグラフにすると次のように表されます。

ソノブイ在庫量推移の推測

 実際の数字はもちろん知らないので暢気に書いているわけですが、どうやら3年であればFY20, FY21で積み上げた在庫の期限切れを当面受け止める、5年または6年であればFY18, FY19分の補填による在庫水準の維持という説明に落ち着きそうです。ただし、例年通りであれば横軸(calendar year)2025年中には、ここに反映されていないFY25調達分の納入が始まるはずなので、2026年は当てにならないことには注意が必要です。

 ここ5年間は総額約3億ドルで上げ止まりというような推移をしてきており、FY24でもこの傾向は継続することになりそうです。特に大国との緊張が高まる現状でこの規模の数量を維持するためには、ここからの圧縮は厳しいものがあるのでしょう。

米海軍空母の対魚雷ハードキル

 米海軍の原子力空母USS George H. W. Bush (CVN 77)は2023年4月12日にジブラルタル海峡を通って地中海を出ました。2022年8月25日に大西洋から地中海に入って以来、実に230日を地中海で過ごしたことになるそうです。

news.usni.org

 そんなUSS George H. W. Bushの写真をDVIDSで眺めていると、ある写真が目に留まりました。空母に搭載された曳航ソナーです。

USS George H. W. Bushの曳航ソナー (VIRIN: 230416-N-IX644-1202)

USS George H. W. Bushの後ろ姿。赤丸のところに曳航アレイを設置する (VIRIN: 230321-N-EH998-1027)

 空母というと搭載ソナーの印象は薄い(主観)ですが、ブッシュは搭載しています。これは何も潜水艦を自ら探知して――というものではなく、自らの対魚雷防御のためです。

 空母のようなHVUは直接的な攻撃に脆弱であり、そのためにもCSGを編成するわけですが、敵潜水艦による雷撃は大きな脅威です。そこで米海軍は対魚雷魚雷防御システム(ATTDS: Anti-Torpedo Torpedo Defense System)という対魚雷ハードキルシステムの開発プログラムを開始し、2013年度にブッシュに最初のプロトタイプを搭載しました。他にUSS Theodore Roosevelt (CVN 71), USS Dwight D. Eisenhower (CVN 69), USS Harry S. Truman (CVN 75), USS Nimitz (CVN 68)の4隻に搭載されました。

 ATTDSは魚雷警報を発するTWS (Torpedo Warning System)と短魚雷のように海面上から発射されて魚雷を探知・破壊するCAT (Countermeasure Anti-Torpedo)からなります。5隻の空母に搭載されて2022年度まで開発・評価が行われてきましたが揮わず、プログラムは終了することになりました。

CATの搭載場所はここ (VIRIN: 230321-N-EH998-1050)

 従って空母に搭載された機器も撤去が進められ、22年度までに2隻、23年度に1隻からの撤去がなされることとなり、最後の2隻も維持のための予算しか要求されていません。ハードキル魚雷防御の広い配備は成りませんでした。