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米海軍のソノブイ調達を見る

 ソノブイは主に哨戒機によって海洋へ展開され、海中の音を拾い、あるいは海中に音を発することで航空ASW作戦における主たるセンサとして用いられる。米海軍は多数の哨戒機を運用し、世界中の海域で高い航空ASW能力を有している。例えば中国およびロシアに対する最前線として日本にも哨戒機部隊が展開しているし、同様に欧州にも展開している。米海軍は新鋭となる哨戒機P-8Aでも100機以上保有しており、ソノブイの使用量も相当なものになる。

 

 先日、米海軍のFY 2022予算資料がSECNAVページに公開された。今回は主にこの中からソノブイ予算を見ていく。より詳しく気になる方はOther Procurement, Navy BA 03を参照されたい。

 

 

米海軍の哨戒機とソノブイ

 米海軍は固定翼哨戒機としてP-3CとP-8Aを保有し、広域哨戒監視偵察活動等に運用している。P-3CはP-8Aで更新中であり、近く完全に入れ替わることになる。また、回転翼哨戒機としてはMH-60Rを艦艇に展開している。主にこれらの航空機によってソノブイは運用される。近年はGeneral Atomics Aeronautical Systems, Inc. (GA-ASI)のSeaGuradian他の無人航空機によってソノブイが展開されるなどの進展もある。

 

 ソノブイは主に航空機から投下され、着水後にフロートが展開して哨戒機と通信するアンテナを含む一部を海面に、送波器/受波器、音源としての爆薬等を既定の深度に沈下させて用いる。

 

 現在ソノブイ予算で調達しているのはAN/SSQ-36、AN/SSQ-53、AN/SSQ-62、AN/SSQ-101、AN/SSQ-125などである。これらはそれぞれ異なる機能を持ち、目的によって使い分けられる。

 

 AN/SSQ-53はハイドロフォンを海中に吊り下げて音波を拾ういわゆるパッシブソノブイで、現在はG型の調達・運用が確認されている。DIFARというのは指向性(Directional) LOFAR(Low Frequency Analysis and Record: 低周波分析・記録)を意味する。比較的低価格で安定しており(とは言ってもFY04と比較すると1.9倍近くになっているが)、数の上でも最も用いられているソノブイと言える。現在はG型の調達が確認できる。

 

 AN/SSQ-62はDICASS (Directionnal Command Active Sonobuoy System)と呼ばれ、送受波器を海中に吊るして哨戒機からのコマンドに従って音を放射し、反射して帰ってきた音を指向性受波器で検出することで探知する。現在F型の調達が確認できる。

 

 AN/SSQ-101はADAR (Air Deployable Active Receiver)と呼ばれる。これはマルチスタティック運用を前提とした受波器で、現在運用されているMAC (Multistatic Actice Coherenet)及びその前のEER (Extended Echo Ranging)の音源と組み合わせて用いられてきた。このソノブイは着水すると規定の深度で下向きに傘を広げるようにして骨組みを展開する。現在はB型の調達が確認できている。

 

 AN/SSQ-125はMAC (Multistatic Active Coherent)という現在P-8Aで運用されているマルチスタティック戦術用音源ブイである。MAC以前、EERでは爆薬を規定深度で爆発させて音源とするAN/SSQ-110が用いられていた。MACでは音源を電気式の送波器に改めている。現在は無印に加えて、並行してA型の調達も開始されているようだ。

 

 AN/SSQ-36は航空機投下型のXBT (Expendable Bathythermograph)であり、航空機から投下して海水温の鉛直分布を調べることで海中の音響伝搬を予測するのに用いられる。

  

 

調達予算

 ではFY22資料および過年度資料から、ソノブイの調達を見ていく。FY22ではAN/SSQ-36、AN/SSQ-53、AN/SSQ-62、AN/SSQ-101、AN/SSQ-125、Mk 84 SUSの調達が実施される予定である。各年度の調達数、総額、単価をFY 2004から追ったグラフを次に示す。ある程度の正確さを期すため、FY20以前は一昨年度実績として記されている値を用いた。参考までに、DIFARの価格を基準にとって他のソノブイ単価の変動を示した。

 

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各種ソノブイ等調達数

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各種ソノブイ等調達額

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各種ソノブイ等調達単価

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DIFARを基準に取った各種ソノブイ単価の変遷

 

 米海軍のソノブイ予算は2010年代に入ってから急激に増加して高止まりしている状態にある。これは主としてP-8Aへの更新とSSQ-125Aが高価であることに起因していると考えられる。

 

 P-8Aは前任のP-3Cと比較して活動範囲を広げた(あるいはオン・ステーション時間を延ばした)ことでより多くのソノブイが消費され得る。また、P-3Cは84個のソノブイを搭載し32個の同時運用が可能とされるのに対して、P-8Aは最大126個(129個とも)を搭載し64個の同時運用が可能とされる。

 

 元々SSQ-125は高価であるが、改良型のSSQ-125Aの調達開始でさらに調達単価が跳ね上がることになった。SSQ-125Aは効果的・効率的な広域捜索能力を持つが、"より複雑"であるため単価は上昇している。A型はFY19で初めて調達されたが単価のグラフが示すように非常に高価なものになり、MACに割り当てられた予算の割に数量は少ないものであった。そのためFY20では従来の無印の調達を再開し、SSQ-125としての単価を下げて調達数を確保し、徐々にA型に移行するという手順を踏むことになった。しかしながらFY22の調達単価は過去最高まで高騰してしまっている。生産供給体制の変化も影響しているようだ。

 

 また、SSQ-101Bは使用している銀の価格のために価格が上昇しているという。これまで使用される銀は国防兵站局(Defense Logistic Agency)の貴金属回収プログラムから安価に調達していたが、その余剰分が枯渇したために市場価格での調達となり、この部分が7.5倍ものコストを要しているとされている。リチウム電池の使用で代替できないか検討されている。

 

 

ソノブイ調達の課題

 先にも述べたように、米海軍はその大規模な固定翼/回転翼哨戒機部隊のためにソノブイの調達・消費量は相当なものになっている。さらにP-8AによるP-3Cの更新、MAC広域捜索作戦コンセプト(CONOP)への移行という重要な時期にある。

 

 そもそもソノブイ等は一般に数年が(推奨)使用期限とされ、備蓄は十数年、数十年と持つものでもないためコンスタントな調達が不可欠になる。しかしながら特に肝心のMACの調達価格は高騰し、それに従って調達数も大きく変動して安定した調達は現状できていない。この点を改善しないことには、今後の哨戒機部隊の運用・能力向上への悪影響からは逃れられないだろう。