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OSINTに昇華し損なったOpen Source Informationです

米海軍省2024年度予算を眺める — ズムウォルトの改修

 ズムウォルト級駆逐艦は、一番艦のUSS Zumwalt (DDG 1000)が昨年2022年に横須賀へ入港したことで記憶に残っている人も多いでしょう。建造は3隻で打ち止め、現在は種々の試験に従事しています。

 ズムウォルトの運用できるミサイルのラインアップは、バーク級と比較すると豊富とは言えません。ズムウォルトはESSMとトマホークのみ、運用が可能と言われていました。

 そんな中、昨年SM-2の発射試験が行われてSM-2の運用が実証されたようです。このSM-2はBlock IIIAZと呼ばれ、Block IIIAをズムウォルトの戦闘システムに適合させる改修をミサイルに施したものです。(※ Block IIIAZは新造されるのではなく、改修キットの形で予算を計上しています)

SM-2 Block IIIAZを発射するUSS Zumwalt (DDG 1000); 220414-N-ZZ999-1001

 ズムウォルトはAGS (Advanced Gun System)と呼ばれる155 mm砲を搭載していますが、今年2023年にはHIIのあるパスカグーラに移動してこれを撤去する予定となっています。その代わりに搭載されるのが、CPS (Conventional Prompt Strike)と呼ばれる極超音速兵器の発射機LMVLS (Large Missile Vertical Launch System)です。

 

 さて、ようやく本題に入ると、公開されたFY24予算資料で対応ミサイルの拡充が要求されていました。ズムウォルトは対水上攻撃手段として、SM-6の運用が近く実現する可能性があります。

www.secnav.navy.mil

 

 正しく言うならばこれまでにも言及されていましたが、今回の資料では先述の2023年からのCPS搭載が行われる改修でSM-6対応改修が行われると初めて明記されました。なお、SM-6対応のための予算はFY21-23の3年間で計520万ドル計上されており、FY24の計上はありません。

 SM-6は対水上兵器として用いられ、例えば先日横須賀配備になったUSS John Finn (DDG 113)はUxS IBP 21という無人アセットの活用を目的とした演習でSM-6を発射して200マイル先の目標に命中させたと言います。

news.usni.org

 一点気になるところを挙げるならば、これまで艦船からのSM-6の運用はイージス艦で行われてきたことです。他の運用例は海兵隊や陸軍の地上発射機からの運用となり、SM-2では必要になったミサイルの改造等はどうなるのか興味が持たれます。

米海軍省2024年度予算を眺める — トマホークの調達

 アメリカの会計年度は10月スタート。3月は予算教書の季節です。

 先日から米海軍省所管の予算について徐々に資料が公開され始めました。数回に分けて(私の気になった部分の)概要を雑に眺めてみることにしましょう。

 

 ここで取り上げている資料は最終決定されたものではないですから、その点は誤解無いように願います。

 

 第1回としてはトマホークの調達を取り上げます。トマホークは言わずと知れた亜音速巡航ミサイルです。ここのところは海軍の艦艇(水上艦および潜水艦)から発射し、地上の標的を攻撃するために用いられてきました。なお、米海軍に加えて米海兵隊もLRF: Long Range Firesとしてトマホークの地上運用を始めます。

 現在、トマホークの調達はミサイル全体の購入だけでなく、既に保有している弾薬の近代化・再認証、または新たな機能の付与を進めています。近代化・再認証については前者がModまたはNAVCOMM (Navigation Communication Modernization upgrades)、後者はRecertificationとして計上されており、配備15年を経過したBlock IVタクティカルトマホーク(TACTOM)は近代化と再認証を受けてBlock Vへアップグレードされます。FY25からはアップグレードにM-CODEと呼ばれるGPS受信機の改善プログラムが適用されます。

 Block Vとして艦船攻撃型のMST: Maritime Strike Tomahawkが開発されて対水上攻撃能力を付与することが可能になりました。MSTの調達は昨年の資料で示された数量から絞られているようです。

 また、地上攻撃用にJMEWS: Joint Multiple Effects Warhead Systemの適用が可能です。このJMEWSキットは、FY23資料ではFY24から調達を開始する予定とされていましたが、来年度に延期された上で5年間の調達数は昨年の計画より増やされています。

 

 さて、なかなか込み入ったトマホーク関連の調達ですが、昨年(FY23)の資料と比較すると面白い変化が見られます。改修キットの調達を大幅に加速し、新品の購入を絞る方針のようなのです。

 FY23とFY24の資料に書かれている数字を並べると次のように整理できます。

TACTOM関連調達計画

 前述の通りM-CodeはNAVCOMMsに組み込まれ、Recertificationはアップグレードの翌年分で計上されていることがわかります。そして昨年の数字から、新品の購入計画数が削られていますが、これは日本のトマホーク購入のための分配がなされたものなのかどうなのか。もっとも、FMSとして既に含まれた数字が示されているのだとしたら謎が深まりますが。

 詳細はまだ公開されていないのでわかりませんが、なかなか興味深い数字が並んでいます。

米海兵隊の対UAS装備 MADIS FoS

 米海軍では近年、小型無人機の運用、あるいは小型無人機への対抗手段(C-UAS: counter-unmanned aircraft system)の保有のために新しい装備品の導入を進めています。特に沿岸域におけるC-UASの一環として行われているのが、米海兵隊のC-UAS装備の艦上運用です。

 2019年にはホルムズ海峡にてUSS Boxer (LHD 4)艦上のLMADISがイランのUASを撃墜したことが話題になりました。米軍はこのときに限らず、通峡時の警戒にLMADISを運用していることが知られています(例えば 2021年のUSS Iwo Jima (LHD 7)のジブラルタル海峡通過時 )。

USS Iwo Jima (LHD 7)飛行甲板上のLMADIS (右奥) 210522-M-TU241-1041

 米海軍および米海兵隊は特に2010年代、対テロ戦において無線遠隔管制式の即席爆発装置(IED: Improvised Explosive Device)への対抗手段として車両搭載式または個人可搬式の装置を精力的に開発してきました。この技術を基盤として、現在用いられているC-UAS装備装備に展開されました。

 今回は海兵隊のC-UAS装備であるMADIS FoS (Marine Air Defense Integrated System Family of Systems)について整理します。

 

 MADIS FoSは固定翼機および回転翼機、そしてグループ1-3のUASに対抗するSHORAD能力を提供することを目的としており、MADISとL-MADIS (Light-MADIS)、I-CsUAS (Installations Counter-small Unmanned Aircraft Systems)からなります 1), 2)。MADISとLMADISに注目したいのでI-CsUASはごく軽くなぞるだけに留めます。

 I-CsUASは前方作戦基地(FOB: Forward Operatoin Base)を防御するための、機動的な運用を要さないC-UASシステムの調達プログラムです。グループ1-2のUASを対象としており、探知から交戦までを行う、購入可能な既存のシステムを求めています 3)

 ではMADISとLMADISの共通点・相違点について軽く概観するところから始めましょう。いずれも車両搭載型C-UASシステムですが、それぞれJLTVとULTV (ポラリスMRZRと呼んだ方が通りが良い気はしている)をプラットフォームとしていることからシステムの規模は異なります。前者はUASのハードキルを目的とした火器を統合していますが、後者にはありません。センサー(レーダー、EO等)は同じものを使用している一方で、いずれも小改良を加えつつあるため、ややこしくなってきています。

MADISとLMADISの車両

 MADISは2020年度予算ではIncrement 1, 2, 3と整理されていましたが 4)、2022年度予算で計上されているのはIncrement 1であり、これがBlock 1と、致死性の向上を目指すBlock 2に分割されています。

 MADISの車両はJLTVであり、Mk 1とMk 2の2種類が存在します。それぞれStinger variantとCUAS variantと呼ばれており、これまでに確認されている30 mm機関砲とスティンガー対空ミサイルを装備した大型砲塔タイプとミニガンを搭載した小型RWSタイプを指しているのでしょう。すなわち上掲の写真左はMADIS Mk 2にあたります。

 ところがDVIDSをさまよっていると第三の車両の存在に気がつきます。この車両はMk 2によく似たRWSのターレットを持ち、同じ構成の照準光学系を持っているようです。一方で車両後部のレーダーは無く、EOセンサーも4つに光学窓が分割されたタイプに変更されています。また、レーダーらしきコンポーネントを後部の荷台部分に見つけることができます。

上掲のMADISと似て非なるセンサーを搭載したJLTV。 VIRIN: 210612-M-DY697-1006

 同様にLMADISについて見ていくと、Incrementによる分類はなされていませんが、同様にMk 1とMk 2という2種類の車両を調達しています。Mk 1は外部のプラットフォームとの通信を担当し、Mk 2が目標の探知から交戦までを担います。LMADISを写した広報写真ではレーダーとEOセンサが目立つ早期警戒/電子戦型のULTV (つまりMk 2)とそれらのない指揮管制型のULTV (Mk 1)が1両ずつの組で動いている様子が確認できます。

 そしてMADIS同様に、丸ではなく長方形のレーダーと異なるEOセンサーを搭載している車両の存在に気がつきます。この車両のEOセンサーを見ると、やはり4つに分割された光学窓があるタイプです。

LMADIS Mk 2のセンサーに見る違い

 では、これらの正体は何なのでしょうか?

 答えは公式発表から容易に見つけることができます。米海兵隊はLMADISのテストを広報する記事(合わせて公開された写真には、上図右の構成のLMADIS Mk 2が写っている)でコンポーネントについて言及しています。曰く、EOセンサーとしてCM262U、レーダーにはRPS-42、ESにSkyview MP、そしてEAにModi II、通信にAN/PRC-158だといいます。ただしこの列挙は幾分注意が必要でしょう。レーダーを供給するRADA Technologiesのサイトを確認すると、RPS-42は上図右のアレイではなく左の丸いアレイを使い、右のアレイではRPS-620/RPS-62に対応すると書かれています。

 ここで確認しておきたいのがレーダーとEOセンサーです。当初見られていたMADIS/LMADISはRADA TechnologiesのMHRレーダーを4面一組として半球状の領域をカバーしていました。またEOセンサーとしてはCACI InternationalのCM202Uを装備しています。しかし、これまでに少数ではあるもののRADA TechnologiesのeCHRとCACI InternationalのCM262Uと思われるセンサーを代わりに搭載した車両が公開されています。実際にCM202UとCM262Uは保守の調達情報からも両方の採用が確認できます 5)

MADIS FoSで用いられるセンサー例

 続いてこれらのメーカー資料を参照します。CM202U 6)とCM262U 7)はいずれもC-UAS用途を想定したもので、前者は可視光および中波長赤外線(MWIR)に対応したセンサーを有します。夜間における探知を含め、MWIRは主要な役割を果たしていることでしょう。後者は加えて短波長赤外線(SWIR)とレーザーレンジファインダーを有しているそうです。CM262のSWIRセンサーは人を約12 km、車両であれば約30 kmの長距離における探知を期待できると主張しています。

 MHR 8)とeCHR 9)はいずれも4面で半球状の範囲をカバーするAESAパルスドップラーレーダーであり、車両や船舶に搭載して、あるいは脚に固定して運用されます。いずれも他に冷却システムを付属させる必要が無いことから、このような小型車両への搭載に向いています。米軍では他にも、米陸軍のM-SHORADや米沿岸警備隊センチネル級カッターにも搭載されています。

 他の搭載品として、Skyview MPが挙げられています。Skyview MPはRF制御のUASの通信を検出することで、UASの探知と識別を行うVerus Technologies社の装置です。このアンテナは下図の緑楕円中に示した灰色のアンテナと推測されます。と言うのも米軍の購入は確認されており、米海兵隊は以前Skyview MP V2を隊員が扱っている様子を公開しています(リンク)。

LMADIS Mk 2の後方 VIRIN: 230214-M-DQ946-1008

 Modi IIはSierra Nevada社の可搬型のC-UASジャマーです。同社のIED妨害装置はAN/PLT-5やAN/PLQ-9として米軍に採用されています。Modi IIの外見については未詳ですが、 DAUのブログ に出所不詳のModi IIとされる装備の写真があります。つまり、Skyviewによって既知となった通信を妨害し、敵オペレーターとの通信を困難にすることを想定したもの、と考えるのが自然でしょうか。

 また、車両の後端に立っている目立つアンテナがPRC-158用のアンテナでしょう(RF-3143TB-AT32X ?)。

 (力尽きたのでこのあたりで終わりとして、)このあたりを確認しておけば、主要コンポーネントを変更した際にある程度推測ができるでしょうか。まだまだ変化の続く、興味深い装備品になりそうです。では今回のDVIDS漁りはこのあたりで。

 

 

資料

1) DOD FY23 Budget Estimate, Research, Development, Test & Evaluation, Navy, 2022 

2) DOD FY23 Budget Estimate, Procurement, Marine Corps, 2022 

3) Installation Counter Small Unmanned Aircraft Systems (I-CsUAS), Notice ID: M67854-23-I-0001, 2022 https://sam.gov/opp/c33f51666cc3473991ec58a55a05e431/view

4) DOD FY20 Budget Estimate, Procurement, Marine Corps, 2019

5) Optic Sustainment in Support of PM Ground Based Air Defense (PM GBAD), Notice ID: M67854-22-R-0009, 2022 https://sam.gov/opp/fd8fe7a56a9d4e86bbff03f4376f600c/view

6) CM202U, CACI International Inc. 2021 https://www.caci.com/sites/default/files/2021-11/F588_2110_AVT_CM202U.pdf

7) CM262U, CACI International Inc. 2022 https://www.caci.com/sites/default/files/2022-06/F576_2107_AVT_CM262_KC_0610b_1.pdf

8) MHR, RADA Technologies, https://www.rada.com/products/mhr

9) eCHR, RADA Technlogies, 2020 https://radausa.com/wp-content/uploads/2021/01/aCHR_eCHR_brochure_Dec2020.pdf

横須賀配備? 米海軍艦の見分け方 Vol. 4

 前回の更新(vol. 3)からもうすぐ1年、いろいろ変わったので更新します。

orca-oruka.hatenablog.com

 

 当時は母港移転「見込」だったUSS Shoup (DDG 86)は実際に母港を横須賀に移し、USS Dewey (DDG 105)やUSS Ralph Johnson (DDG 114)は改修・修繕作業が施され、USS Barry (DDG 52)はつい先日、2月17日に離日し、そして今度は近くUSS John Finn (DDG 113)が横須賀に母港を移すようです。

 そこで今回はUSS John Finnを加えて、改修を反映して作成しました。このチャートではUSS John Finn と USS Rafael Peralta (DDG 115)が同じところに入っていますが、USS Rafael PeraltaはCIWSのカバーや5インチ砲の砲身に赤色が施されている点でも見分けられるかと思います。また、USS John Finnはブリッジの前にレーザー兵器であるODINを搭載しています。

 若干余談ですが、USS Deweyは昨年からの改修でODINの設置位置に覆いをしており、長いことODINを確認できていません(2023年2月現在)ので注意が必要です。またUSS Ralph Johnsonは左舷後方向きのSPY-1のアレイ上に新しく衛星通信用途と思われるアンテナを追加しました(写真中央左のレドーム)。

USS Ralph Johnson (VIRIN: 230126-N-YQ181-1001)

 

 ということでvol. 4はこんなところでしょうか。

横須賀配備DDG, CG判別フローチャート

 

 ではでは皆様、よきDDG鑑賞ライフを。

【米海軍】ゆくDDGくるDDG【横須賀】

 横須賀配備の米海軍DDGはここ2年くらいでかなり入れ替わりましたが、今後ももう少し続きそうです。

 

 2021年はバーク級DDGのうち、「フライトIIAリスタート」と呼ばれる建造再開初期にあたるUSS Ralph Johnson (DDG 114)やUSS Rafael Peralta (DDG 115)が横須賀に配備されました。USS Higgins (DDG 76)、USS Howard (DDG 83)、USS Dewey (DDG 105)も同年に横須賀に母港を移し、フライトIIA艦の配備が一気に進みました。なかでもUSS DeweyはODINというレーザーCIWSを備えていることから話題になったように記憶しています。そして2022年はUSS Shoup (DDG 86)が来日し、現在の体制になりました。

 

 例年冬にはUS Naval Academy (USNA)とNaval Reserve Officers Training Corps (NROTC)から新任となる配属艦が選ばれます。そこでは勤務地が示されるため、配属先となる艦は今後1年程度の配備地が分かることになります。

 

 今冬明らかになったのは、2023年のUSS John Finn (DDG 113)と2024年のUSS Preble (DDG 88)の横須賀への母港移転です。

 

 USS John Finnは先に述べたフライトIIAリスタートのまさに1番艦であり、ODINを装備している点でも特徴的です。またSM-3やSM-6を用いた試験に多数従事してきたことも特徴的です。2020年11月に実施されたFTM-44では、USS John Finnは外部センサの情報を利用してSM-3 Block IIAミサイルを発射し、ICBM模擬標的の迎撃に成功したと発表されています。さらに2021年4月には、無人ビークルとの協同に焦点を当てた演習"UxS IBP 21"で無人ビークルによるES情報をもとにSM-6を発射し、水上目標に対するOTH攻撃を成功させたものと思われます。米軍は鹿屋基地にMQ-9を展開させており、非常に興味深いところです。

USS John Finn (DDG 113) ODINを搭載している (221227-N-HH412-814)

 

 USS Preble (DDG 88)はODINとは別のレーザーCIWSである"HELIOS"を搭載している唯一の艦であり、現在はサンディエゴを母港としています。搭載改修は昨年夏に完工したばかりで、2024年の展開はなかなか挑戦的に思えます。実現すれば横須賀は有力なレーザー兵器を有する艦が集う有数の軍港と言えるでしょう。

orca-oruka.hatenablog.com

 

 一方でUSS Barryは米国本土Everettへ移るようですから、今のうちに見ておくのもいいかもしれません。

 

 ということで短いですが、しばらく更新できていなかったので出さないより良しということで...

【盛夏のハワイ写真録】USS TulsaのAN/TPY-3レーダー設置【その3】

 すっかり秋も深まってきましたが心は夏のハワイ、第3回です。

 この夏、米海軍の沿海域戦闘艦USS Tulsa (LCS 16)はハワイに居ました。米海軍はNSM (対艦ミサイル)を装備したインディペンデンス級駆逐艦を複数隻、西太平洋に展開させる方針をとっており、同艦はかねてからその一部として西太平洋に展開していました。7月ごろはハワイはパールハーバーを拠点に動いており、複数目撃されています。その後は7月末に母港サンディエゴに戻り、現在は浮きドックで整備に入っているようです。

 さて、7月に撮られたUSS Tulsaの写真を見ると、珍しいことに気付くと思います。ヘリ甲板にレーダーシステムを設置しているのです。確認できるのはAN/TPQ-53レーダーシステムでも使用されるAN/TPY-3レーダーと牽引式発電機、そして複数のコンテナです。

USS Tulsa艦上に展開したレーダーシステム (VIRIN: 220707-N-EE352-1198)

 通常、TPQ-53はM1092 2両にそれぞれTPY-3と運用・通信用のAN/VPC-95シェルターを載せ、各々が牽引式発電機を繋いでいます。今回見られるのはこのうち車両に依存しないレーダーのみのTPY-3と牽引式発電機1基のみであり、他に民生用発電機とみられる機器と、処理・運用用途と思われるコンテナが2基(大・小)見られます。また、興味深いことにTPY-3は基部と空中線部で塗装が異なります。

 こういったコンテナをベースにした運用ステーションは船上における一時的な運用ではよくあることですし、たとえばTPQ-53にも参画しているKratosのような企業は、それらの経験を生かしてコンテナ等にも十分なEPを施して運用ステーションとして仕立てている例があります。

 これの正体が気になるところですが、端的に不詳です。3か月待ってみましたが公式発表は見ている範囲ではないようです。ただ気になるのは、この運用の目的です。安易に出てくるところでは、LCSを単に海上プラットフォームとして海上や港湾における運用のテスト、もしくは、むしろLCSの能力の不足をこのような形で補う運用のテストでしょうか。最近も発表がありましたが、米陸軍はTPQ-53のC-UASにおける能力の評価を行っているようです。

news.lockheedmartin.com

 C-UASは米海軍でも喫緊の課題としている分野であり、電子攻撃・妨害または指向性エネルギー兵器を用いた(空中、水上を問わない)無人機への攻撃手段の開発配備が目立ちます。一方で攻撃以前に目標を探知追跡する手段は言うまでもなく重要な位置を占めます。米海軍は以前カリフォルニア沖で米軍艦をストーキングするUASらしき飛行物体を発見した旨報告していますし、折しもロシア艦がUSVによって攻撃を受けたらしいという話もあります。今後は探知手段についても議論が熱を帯びるであろうことは疑いようもなく、本件も関連する可能性があり興味深いところです。

【盛夏のハワイ写真録】USS Fitzgeraldのアンテナ増設【その2】

USS Fitzgeraldにアンテナが生えた

 USS Fitzgerald (DDG 62) は2022年の夏はパールハーバーを中心に活動し、RIMPAC 2022やPacific Dragon (PACDRAGON) 2022演習にも参加しました。RIMPACは言うまでもない大規模多国間演習であり、PACDRAGONは多国間のミサイル防衛演習です。今回のPACDRAGONは日米豪韓加の参加で実施され、SM-3 Block IAによる短距離弾道ミサイルの迎撃を含む訓練が行われました。

 例によってRIMPAC周辺では様々な海上試験がよく行われている経緯があるので参加艦艇であるUSS Fitzgeraldをウォッチしていましたが、期待していた通り普段はないアンテナが設置されました。6月末のことです。

 

NSWC Corona Division

 Naval Surface Warfare Center (NSWC) Corona divisionは、データ分析と評価を通じた戦闘部隊の即応性評価、訓練環境の整備、測定の正確性の保証をミッションに掲げています。今回アンテナを設置したのはNSWC Coronaで、PACDRAGON 2022におけるUSS FitzgeraldのSM-3発射の評価を行うためとされています。

 今回設置したアンテナは主に2つのシステムに供するためのもので、ひとつはミサイルのテレメトリシステム、もうひとつはKu帯衛星通信(SATCOM)システムです。

www.dvidshub.net

 

テレメトリ

 テレメトリ (telemetry) はそもそも「遠隔測定」を表す語で、特にミサイルの発射に伴う場合はミサイルから母艦(あるいは観測プラットフォーム)へ情報を送信するシステムのことを言います。SM-3の発射の際には母艦にテレメトリシステムが設置されることが通例となっています。

 今回、enhanced Portable Advanced Telemetry Acquisition System (ePATAS)と呼ばれるシステムが使用されたとされており、2020年11月のUSS John Finn (DDG 113)によるICBM模擬標的迎撃試験(FTM-44)でも利用されたようです。一方で設置されたアンテナを見てみると、Quasonix社のテレメトリシステムで利用されるアンテナのようです(おそらくPD300)。デッキ上のアンテナとしては後部VLSの右舷側に設置された剥き出しの白色パラボラアンテナと、煙突のホイップアンテナ横に設置された無指向性アンテナの組になるようです。NSWC CoronaとQuasonix社の契約は調達情報でも確認できますが、ePATASとはQuasonix社のシステムを利用したものなのでしょうか。

www.quasonix.com

www.usarfp.com

www.navsea.navy.mil

 米海軍はSM-3による弾道ミサイル迎撃試験時には基本的に後部VLS右舷側周辺にテレメトリ用の指向性アンテナを設置して記録するのが通例になっています。一方でアンテナの種類については複数種あるようです。

USS Fitzgeraldに設置されたテレメトリアンテナ (VIRIN: 220629-N-UP244-1141 をクロップ)

 

SATCOM

 SATCOMアンテナは、ヘリパッドへの設置が確認できました。夏にヘリの運用を諦めてヘリ甲板をアンテナのために潰すのもまた茶飯事です。さて、このKu帯SATCOMですが、ミサイルの飛翔に伴うデータの陸上サイト等への通信に用いるようで、これもSM-3の発射試験では定番になるものです。

 FTM-44でもUSS John FinnにはKu帯衛星通信装置が設置され、MDAミサイル防衛統合運用センター(Missile Defense Integration & Operations Center)等へテレメトリデータをリアルタイムで送信したとされています。このシステムはNSWC Coronaによって開発され、運用されています。

USS Fitzgeraldに設置されたKu帯衛星通信アンテナ。このあとレドームを被せられる (VIRIN: 220627-N-UP244-1095)

 

 NSWC Coronaは訓練の評価というその担っている役割からUSS Fitzgeraldの支援の他にも、海上自衛隊護衛艦も含めてRIMPAC 2022の参加艦艇、そしてハワイに集合した米海軍の4隻の無人艦艇にイリジウム衛星通信によるトラッキングシステムを設置するなど、大規模演習の記録と再現に基づく評価を行うために実地にも活躍したのでした。

www.dvidshub.net