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ソノブイに関する米海軍の予算資料の分析

 さて、米官公庁は予算制定の季節です。米軍もそれぞれ予算を立てなければならないわけですが、予算資料は例えば米海軍+米海兵隊の要求予算の資料はSECNAVのページで公開されています[1]アメリカは10月から会計年度(FY, Fiscal Year)が始まるのでいま(2022年3月)揉まれているのは2023年度(FY23)予算です。今回はFY22資料を主に見ていくことになります。ちなみにこれに対応して1月から始まる暦年をCY, Calendar Yearと何の気なしに書くことがあるかもしれません、そういう意味です。

 

まず概観

 まずは外観というか何が書いてあるかから。SECNAVの予算資料ページに飛んだらpdfがいろいろ置いてあります。"DEPARTMENT OF THE NAVY SUMMARY"のところにあるのが大まかな部分をまとめたもので、例えば今年はDDGを何隻調達したいんだい、といった疑問を持った時に見ると便利です。

 今回見たいのはソノブイの調達ですが、これの細かいところはその下にある細分されたファイルを開くことになります。ソノブイは"Other Procurement, Navy (BA-3)"[2]に例年含まれます(ちなみにBAはBudget Activityの頭文字)。開くとまず目次があるのでソノブイのページを調べてそこまで飛びます。それでは大まかな構成です。

 最初にあるのはプログラムの過年度実績と今後数年の計画額が示されています。その下にあるのは調達する装備品に関するちょっとした説明、さらに調達の理由について説明されています。ここの記述や注を追っていると時に意外な発見もあったりします。さて、その次が調達品目ごとの調達単価、調達数、合計調達額です。これは数年にわたって書かれているので、推移が把握しやすいと思います。そのあとに調達契約の情報があって、次が月ごとに分解した調達数量です。前にあった年ごとの調達数をさらに細かく見ていったものです。これは過年度分と本年度分だけで将来計画分はありません。最後にライン速度やリードタイムの情報があって、年度によって多少構成は変化しますがここで終わりです。

 この中から情報を回収して、何かわからないかなとこねくり回そうというわけです。

 

数値情報を回収、推移を見たい

 今回は表にまとめられている調達単価や調達数量なんかの推移を見やすくまとめて何かわからないかなと試してみることにします。まず単価、年調達数量、年調達額をまとめてみました。というのは実は以前ブログにも書いたんでした。

orca-oruka.hatenablog.com

 ここでも書いていましたが、資料には現在AN/SSQ-53, 62, 101, 125の4種類が記載されています。以前はAN/SSQ-77, 110もありましたがそれぞれAN/SSQ-101, 125がその立ち位置を引き継いでいます。

 今回はさらに月ごとのデータを取り込みました。ではまずFY14以降のAN/SSQ-53 DIFARの調達数をグラフにしてみましょう。2カ所スパイクが見えるのは計上予算が入れ替わるタイミングでの重なりによるものです。

FY14以降のAN/SSQ-53生産の推移

 例えばFY'n'年の予算による生産はCY'n+2'年の第一四半期には終わる(特に近年の計画ではCY'n+2'年始に終わらせたさそうな)傾向が見て取れます。FY19とFY20を除けば生産期間中の生産レートはあまり変動しないよう配慮はされているようですね。

 もっともFY19はよく見てみると見え方が変わってきたりします。ここで書いているFY19はOCO分を足した数量になっているのです。パッとOCOといわれてもというところで、OCOとはOverseas Contingency Operationsを示し、逐語的に直訳すると「海外有事作戦」となります。つまりシリアおよびイラク等のイスラム国に対する「生来の決意作戦」やアフガニスタンにおける「自由の番人作戦」の支援のために戦場で使用されたソノブイの補充として必要な調達です。

 たとえばロシアは2015年には地中海に展開させた潜水艦からシリア領内のイスラム国に対して巡航ミサイルによる攻撃を実施したと発表しており[3]、OCOで満たすソノブイは地中海でロシアの潜水艦を監視するために使用されたものであった可能性も考えられます。

OCOを分けて示した調達の推移。縦軸は1/1000しているので注意

 さて、話が逸れましたがOCOがなければ割と平坦だったりします。だからどうというわけでもないですが。

 さてさて、ここまでわかるときになるのがソノブイの備蓄です。もっとも米海軍は世界中に展開させているなかでそれぞれの航空基地で備蓄状況に差異が生じることは想像に難くありません。ここで見られる(見た気になれる)のは大観的なものであることは先に頭に入れておく必要があります。

 ソノブイの寿命というのはここで重要なファクターです。ここでは仮に、日本の会計検査院が書いた「約3年」という数字(品質保証期間)を使ってみましょう。唐突な流れ弾ですが海自は一部部隊での品質保証期間切れを会計検査院に指摘されたことがあります[4]

 これをFY14以降の月別の数字に組み合わせてみましょう。するとこんな(↓)カーブが見えてきました。これは最大でこれだけストックがたまるよ、というもので、ここからソノブイを消費して減っていくことになります。なおFY13以前は入っていないので、例の生産サイクルからしても2017年いっぱいまではあてになりません。2018-19年頃から雰囲気出る(?)感じですかね。

保管期間を3年間としたときの最大保管数

 以前のブログでも書きましたが米海軍はここ数年ソノブイの調達はP-8Aへの更新によってか、拡大傾向にあるという認識でしたが、より長期のスケール(↓)でも、同様にして確認できました。

保管期間を3年としたときの最大保管数。より長期の推移を示す

 

 といったところで見切り発車で書き始めたエントリがなんとか落ち着いたのでさっさと終わらせます。

 FY23予算案は3/29に概要部分のファイルがSECNAVのページに公開されましたがOPN BA 3はまだのようです。元のデータはpdfファイルですが、ここで使ったデータに関してはxlsxファイルに起こしています。使って何か弄ってみたいという方はお気軽にご連絡ください、善処します。(その結果を見せていただけると一層喜びます)

 

リンク

[1] Budget Materials, https://www.secnav.navy.mil/fmc/fmb/Pages/Fiscal-Year-2022.aspx

[2] FY 2022 Other Procurement, Navy; Budget Activity 3, https://www.secnav.navy.mil/fmc/fmb/Documents/22pres/OPN_BA3_Book.pdf

[3] 日本経済新聞, ロシア、「イスラム国」に巡航ミサイル攻撃 潜水艦から 2015年12月9日, https://www.nikkei.com/article/DGXLASGM09H0E_Z01C15A2EAF000/

[4] 会計検査院, 平成18年度決算検査報告 海上自衛隊で調達しているソノブイについて、品質保証期間を考慮して管理換の指示を行うなど適切な管理が行われるよう改善させたもの, https://report.jbaudit.go.jp/org/h18/2006-h18-0474-0.htm