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米海軍の海洋音響監視

米海軍の水中目標の監視はどうやっているのか、ずっとSOSUSだけ...?ということはありません。いろいろやってきましたが、いろいろと困難も多かったようです。

 

 

増勢の進む音響測定艦

 今年夏に公開され (、先日には防衛力強化加速パッケージが加わっ) た防衛省の令和4年度概算要求[1]で、音響測定艦1隻の新造が夏の予算案に引き続き掲載されました。H29年度予算で建造されたひびき型音響測定艦の3番艦あき(AOS 5203)に続く4番艦となります。31中期防では掃海艦、音響測定艦海洋観測艦を合わせて4隻と設定され[2]、R2年度に掃海艦1隻を要求しておりR4年度では音響測定艦海洋観測艦、掃海艦を各1隻要求しています。

 

 海上自衛隊は現在、今年(2021年)3月に就役したばかりの『あき』を含めて3隻のあき型音響測定艦をクルー制で運用しています。このひびき型AOSの1-2番艦はそれぞれ1991年、1992年に就役しており、3-4番艦の建造は実に30年近くを隔てての建造となります。

 

 同様に米海軍はT-AGOS (X)として新たに音響測定艦をFY 2022で1隻、FY 2023で1隻調達する計画としています。初期のSWATH艦は艦齢30年を超え代替艦を必要とする時期になっており、米海軍はFY2022-FY2025に年1隻ずつ計4隻、さらに3隻を建造して最終的に7隻で現在5隻の音響測定艦を代替したいとしています[3]

 

 さて、本邦の音響測定艦の来歴、というより建造の経緯は海上自衛隊50年史[4]を参照することにします。1987年3月に発覚した本邦企業によるCOCOM規制違反、それによりソ連潜水艦の静粛化が予想される中、同年6月の中曽根首相・ワインバーガー米国防長官会談で日米安全保障条約の枠内で対潜能力を向上させるため種々の取り組みを行うことを確認し、続く防衛相会談、防衛実務者協議を経て音響測定艦とASWセンターの整備他が決まります[5]。これに従いS64年度/H元年度(1989)及びH2年度(1990)にそれぞれ1隻の音響測定艦の予算が計上されました。また、13中期防では1隻の増勢が計画されていたが実現しませんでした。

 

 

米国の海洋音響監視システムと日本

 率直に概観から、米国は統合海中監視システム(IUSS; Integrated Undersea Surveillance System)としてCOMUNDERSEASURV(Commander, Undersea Surveillance)の指揮で潜水艦他のコンタクトを監視してASWを支援しており、探知情報は海軍海洋情報処理施設(NOPF; Naval Ocean Processing Facility)からもたらされることになります。では何のデータをもとに探知しているのか、ここで活用されているのがSURTASS艦および海底音響センサ群等です。

 

 IUSSは潜水艦の探知・位置特定・追跡、音響情報・水路情報の収集、任務に関連する情報処理・通信装置の維持といった広範な業務を担当しています[6]。今回はこのうち潜水艦の探知・位置特定・追跡に関わる部分を取り上げます。米軍は海底固定聴音網と移動聴音機としてのSURTASS艦の二本立てで音響監視センサを運用してきました。

 

 米国の海中監視は同盟国との協力により成り立っており、北西太平洋近辺における米国の海洋音響監視に海上自衛隊が関わってきたことは有名なことです。先述のようにCOCOM規制違反を突っ込まれるかたちで装備化が決まったAOSですが、米国の海洋音響監視に相当に深く組み込まれているのが実際のところだと考えられます。例えば、AOS装備化前の昭和63(1988)年10月に参議院内閣委員会で有名な答弁があります[7]。この答弁の中で音響測定艦およびASWセンターへの米軍人・軍属の来所・乗艦はあり得ると述べており、また収集資料の提供を含めた資料のやりとりは想定されていたようです。

 

 米国ではSOSUSによる監視が始まる初期から、全体のスキームとしてNAVFACでデータを処理して送り出し、HF/DF等の他種の探知情報を"評価センター (evaluation center)"で組み合わせて"submarine  probability area (SPA)"と呼ばれる潜水艦が存在し得る海域を割り出し、そこにASW部隊を向かわせるという手法が取られていました[8]。当初はソ連の潜水艦は騒音が大きいために計画通りに長距離探知できていましたが、静粛化が進められるとSOSUSによるSOFARチャネルを利用した長距離探知は大幅に難しいものになりました。そのためIUSSによる海中監視は変革を求められることになります。

 

 また、監視対象の変遷も海中音響監視能力の構築に大きく影響を与えてきました。黎明期から主としてソ連原子力潜水艦を探知することに注力してきたIUSSは、ソ連の崩壊と潜水艦の拡散により1990年代、2000年代には浅海域におけるディーゼルエレクトリック潜水艦の探知に注力する必要が生じます。さらに現在ではロシアと中国が強力な潜水艦部隊を運用しており、特にそれぞれノルウェー海から北極圏、そして西太平洋と各々の周縁の海域における海中の優位を争っています。また、北朝鮮原子力推進ではないものの弾道ミサイル潜水艦(SSB)を保有するに至っていることも特筆に値するでしょう。

 

 

SURTASS艦の建造と運用

 SURTASS (Surveillance Towed Array Sensor System, AN/UQQ-2)は潜水艦の監視を目的としたソーナーシステムで、当初ストルワート級音響測定艦に装備されました。初期は曳航アレイを1本、太い曳航アレイを曳いており、潜水艦の発する音を検出していました。しかしながら仮想敵の潜水艦の技術的進歩・仮想敵の変遷に伴ってSURTASSは改修されていくことになります。

 

 SURTASSは固定聴音網を補完する存在として整備されてきました。必要に応じて展開場所を変更できるSURTASS艦は、SOSUSの設置されていない海域の監視や設置海域周辺の監視の多重化に都合の良い資産です。ストルワート級は1980年代から2000年前後にかけて就役していたモノハル型のSURTASS艦で、続いてSWATH (Small Waterplane Area Twin Hull)船型のヴィクトリアス音響測定艦(SWATH-P)、そして同級艦は他になく大型のSWATH-Aと呼ばれるUSNS Impeccable (T-AGOS 23)へ続きます。海上自衛隊のひびき型音響測定艦の1-2番艦はヴィクトリアス級と同時期の建造です。

 

 SWATH船型の採用は特にシーステートの高い海況で航行を安定させる必要から採用されました。SURTASSの運用には低速で長期間安定して航行する必要がある点が特徴と言え、その点で劣るストルワート級はT-AGOS減勢により2000年代には姿を消すことになります。

 

 当初は長大な曳航アレイによる長距離パッシブ探知を期待していましたが、当初の探知目標であったソ連潜水艦の静粛化に伴い種々の改修が加えられます。その中でアクティブ探知を行うべく低周波アクティブ (LFA; Low Frequency Active)が計画されましたが、ちょうどソ連の崩壊に直面しLFAによる浅海域のディーゼルエレクトリック潜水艦の探知が検証されていきます。

 

 先にも述べましたが米海軍はさらにT-AGOS(X)の調達により音響測定艦の増勢を計画しています。これは新型の音響測定艦として計画されており、2019年の資料では排水量は8,500 t、最大速力は20 ktに達する設計が検討されています[3]。またFY2022予算資料より曳航パッシブアレイのみならずアクティブ発信を可能とする計画のようです[9]

 

 

SURTASSの改修

 さて、一口にSURTASSと言ってもストルワート級の装備当初から変更が無いわけもなく、数段階に大規模な改修が行われています。もっとも目立つのが曳航アレイの更新と低周波送波器の追加でしょう。

 

 SWATH艦では曳航アレイは当初の1本の大型アレイから、細径アレイ(RDA; Reduced Diameter Array)、A180R、さらにTL-29Aへ更新されてきました。RDAはパッシブ探知の性能向上をもたらし、またこの改修でアクティブ発信に対応する受波器としても機能するようになりました。これは搭載艦のアクティブ発信能力の有無にかかわらないもので、SWATH-Aはもとより送波能力を持つ予定であったのに対してSWATH-Pはパッシブ探知またはSWATH-A艦の送波を用いたバイスタティック受信艦として機能する予定でした。A180はRDAと同等の機能を安価に提供するものと説明されています[10]。TL-29Aは潜水艦の搭載するTB-29Aと基本的には同一で、2本を横並びに曳航することで(おそらく到来時間差により)方位を特定することができます。

 

 先述の通り、SURTASSはLFAの導入で深海域の静粛な原潜への優位性を回復しようとしましたが、開発中にソ連は崩壊し探知の主目標は1990年代から2000年代にかけて浅海域のディーゼルエレクトリック潜水艦に移りました。この時期はIUSSにとっても混迷の時期で、T-AGOS艦は大幅に削減され、さらに新たなT-AGOSとなるSWATH艦も必要性が疑問視されました。当時は既に研究中であったLFAを当初の対象と異なる用途に転用しようとしたことも疑問の対象とされたようで、またUUVや後述するADSといった新技術で代替できないのかという議論もあったと言います[11]

 

 一方でLFAの開発は続けられ、実運用に至っています。そもそも音の海中伝搬は空中の電波伝搬と同様に周波数による様態の違いは大きく、また海底や海面での反射もあり複雑を極めます。一般に戦闘艦搭載のアクティブソナーで用いられる数kHzの音は長距離になると海水による吸収減衰の寄与が大きくなります。一方で10 Hz以下ではノイズが大きく、潜水艦の探知には向きません。そこでLFAは≲1 kHz、あるいは100-500 Hzの周波数帯域を使っていると言われ、また230-240 dBの音源レベルを持つとも言われます。LFAは当初R/V Cory Chouestによって低周波アクティブ探索の研究がなされ、このとき用いられた音源は42 tに達し、電力は1 MWを必要としたとされています。LFAは当初、ソ連原潜の探知を想定していたことから北大西洋やアラスカ近辺で試験を行っていたようですが、1991年からは主眼を浅海域に移し、試験海域の選定を変更しています[12]。浅海域では海底の音響反射による残響が支配的になり、また海底地質の影響を大きく受けるため米海軍はLFAに限らず、例えば日本近海でも幅広く研究または演習を行ってきています。

 

 ところで海上自衛隊音響測定艦アメリカに非常に依存した――との言い方は語弊があるかもしれないですが、少なくとも調達運用両面で支援を受けています。調達は米海軍との費用分担協定(cost sharing agreement)に基づき米海軍予算にも組み込まれています。そのため米海軍の予算資料である程度動向が窺えるわけですが。とにかく、海自音響測定艦はA180RおよびTL-29Aの搭載は確認できる[13]一方で送波器の搭載は確認できず、おそらく送波機能は無い、ただしバイスタティック受信を行えるものと思われます。余談として、軍属となる民間人が海自の音響測定艦に乗組む内容の米海軍の契約もあったりします[14]

 

 また米海軍の5隻のT-AGOSはいずれも同様の改修を経ており、さらにこのうちUSNS Loyal (T-AGOS 22)を除く4隻はアクティブ発信能力を備えています。USNS Impeccable (T-AGOS 23)はLFA (Low Frequency Active)、他の3隻はCompact LFAと呼ばれる装置を搭載しています。これらは垂直に配列したアレイ送波器であり、艦の下面から垂直に下されるようになっていてSWATH-P艦は下面の出っ張りの有無で容易に判別できます。

 

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CLFA改修前のUSNS Effective (T-AGOS 21)。下面は艦前部の錨収納部を除き滑らか。
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CLFA搭載後のUSNS Able (T-AGOS 20)。船体中央下面に出っ張りが見える。
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 そして重要なのが処理装置の更新です。特に注目したいのがA-RCI (Acoustic Rapid Commercial Off-the-Shelf (COTS) Insertion)で、これは米原潜に準じた更新プログラムです。音響測定艦は衛星通信で陸上施設へデータを送信する点で特徴がありますが、曳航アレイと共に原潜と共通であることは原潜の価値の高さを象徴するものでもあるでしょう。同じ処理装置を音響測定艦用に海自に供給しているのも興味深い話です。

 

 

SURTASS-Eとは

 現在、SURTASS-E (-Eはexpeditionary)と呼ばれるプログラムが佳境にあります。このプログラムはコンテナベースでTL-29Aや処理装置他を組み込み、それらをオフショア支援船に搭載することで簡易的なSURTASSとして機能させるというものです[15]。2019年には大西洋で初の運用が実施されています[16]。Hornbeck Offshore社が契約を獲得しHOS Red Rockへ搭載されたことが確認されています[17]

 

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SURTASS-Eのコンテナ群 [12]。左手前のコンテナには衛星通信アンテナのレドームがある。

 

SOSUSの開発と運用

 SOSUSは海洋音響監視の代名詞とも言える非常に有名な存在ですが、その分興味深い点も多く知られています。SOSUSは先述の通りソ連潜水艦の静粛化に伴い十分な性能を発揮できなくなりますが、改修を経て多様な能力を持つに至ります。まず処理能力の向上により信号処理利得を改善し、また単一アレイ中のハイドロホンを複数のグループ(アレイ)に再編することで従来単一だったアレイで同時に複数のビームを形成できるようになったとされています[8]

 

 一方で問題は依然として多かったようで、1995年には修復を対応できる電纜敷設船がメンテナンスのため利用できず、そもそもケーブル修復のための予算が計上されないという事態に陥っています。 同時に、当時は「スタンバイ」状態であると答弁されており、実質的に監視は行われていない/行えていなかったのではないかと考えられます[19]。当時は既にSOSUS後継と目される固定式分散システム(FDS; Fixed Distributed System)の開発が進められており、ソ連が崩壊した後であることもあって後継システムによる更新を待つという姿勢が取られたのかもしれません。

 

 

FDSの開発と混迷の始まり

 FDSはSOSUSの後継として、固定式の海中音響センサとして開発されました。静粛化した潜水艦は上方と下方に何度も反転を繰り返すSOFARチャネルによる長距離探知が困難になり、FDSはreliable acoustic pathと呼ばれる、直接的に到達する伝搬経路による探知を主眼としたものでした[14]。この場合、当然ながら一つのセンサが対応できる面積は減少するため、FDSではプログラム名の通りセンサを分散させることでその解決を試みました[8]

 

 FDSは二分すると水中セグメント(UWS; Underwater Segment)と陸上信号情報処理セグメント(SSIPS; Shore Signal and Information Processing Segment)からなります。センサ部は複数のハイドロホンとマルチプレクサ/リピータ、接続ケーブルからなる「クラスタ」がこれもケーブルに複数連なってUWSを構成しています。[21] ここで文献を参照すると1クラスタは1次元アレイに並べられているようですが、実際に配備する際に1次元配列なのか2次元に処理できるように配置したのか、複数クラスタで2次元アレイを構成したのか、そのあたりははっきりしません。ハイドロホンで受信した音響信号は電気信号に変換されてマルチプレクサへ送られ、光信号へ変換されて(減衰と)リピータで増幅を繰り返しながら陸上へ送られます。以前は同軸ケーブルで信号を陸上へ送信するシステムだった一方でFDSでは光ファイバを採用しており、敷設の自由度は向上したとされ、FDSは深海域・浅海域いずれにも対応できると謳われています。そして何より多数のクラスターを運用するからには大容量データ通信を行えることは不可欠で、光ファイバは最適でした。

 

 開発されたFDSは要求を満たしたものの、採用はされませんでした。湾岸戦争直後の1990年代初めに求められたのはGIUKギャップの監視よりも沿岸浅海域の監視であり、どの地域で紛争が始まり集中した監視が必要になるかわからないような不確実な情勢への対応でした。そのためFDSの試験時に規模を縮小して製造していたモデルのFDS-D (-Dはdeployable)を代わりに採用し、これをもとに続くADS (Advanced Deployable System)の開発へと向かいます。

 

 FDSは長期の運用計画によるもので、15カ月の環境調査の後に年単位で敷設を行い、さらに陸上サイトの建造が必要になるという大掛かりなものです。一方FDS-Dは数日で船舶による輸送・敷設ができるようで、陸上部分についても空輸が可能とされています[22]。この構成であれば、敷設ができる船舶さえ確保できていればFDSと比較して相当に短期間のうちに運用が可能な状態にできます。一方で、ケーブルの陸揚げは依然として必要なので沿岸国の協力は不可欠なものになります。

 

 FDS-Dは地中海で運用試験が行われており、その際のレポートの一部は公開されており誰でも読むことができます[23]。ここでは漁業活動、特にトロール漁船によるケーブルの損傷が取り上げられており、敷設場所の選定の複雑さを感じさせるものです。この敷設ではトランクケーブルは400海里に達し、その先でケーブルは折れ曲がりながら探知エリアにセンサを配置しています。この試験はイタリアのシチリア島チュニジアに挟まれたシチリア海峡で行われており、ここをチョークポイントとして地中海東部と西部を移動する潜水艦の探知を目指したものだったと考えられます。あくまで概略ですが、地図と重ねた図を示します。縮尺の調節などは適当なので参考までにと言ったところですが、イメージはしていただきやすいかと。

 

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シチリア海峡FDS-D展開イメージ。[23] [24]をコラージュ。

 

 

ADSからDADS、DNS

 FY1992にFDS-Dの後を継いで始まったADSプログラムはFY1993に概念研究、FY1994にプロトタイプの製造に着手、FY1996には大規模試験を実施すると計画されました。ADSは特に浅海域の水中・水上目標の監視が目的とされています[25]。ADSのFDS-Dと異なる点に、センサまで及ぶ完全な光ファイバ化と特徴的な展開方法が挙げられます。

 

 ADSではAll-Optical Deployable System (AODS)プログラムの成果を活用し、さらなる小型化軽量化が図られました[26]。AODSでは音響環境に曝された光ファイバと参照光ファイバの光路長差をマイケルソン干渉計を用いて測定することで音響信号を検出します。今日では、曳航ソナーなどでは特に光ファイバハイドロホンの採用は増えています。AODSは1996年、SWellEx-96にて18日間に及ぶ海洋試験を行い、0.5 TBのデータを記録したと言います。このときは32素子のアレイを2つ展開し、光ファイバ1系統にまとめて陸揚げしています。

 

 ADSの展開方法は非常に特徴的で、これは予定していた運用のために開発されたものでした。ADSの要求として"scenario driven"であること、と表現されたことがあります[19]。すなわち必要になった場所へ、状況に応じて展開・運用できる機能が求められます。このため展開プラットフォームはLCSが選択され、さらに潜水艦による展開を示唆する記述もあります。

 

 ADSは箱型にパッケージされており、結節点となるArray Installation Module (AIM)と自走式のアレイ展開ヴィークルであるDispenser Transport Vehicle (DTV)からなります。海中に投下されたADSは、互いに幹線で接続されたAIMからDTVが航走することでハイドロホンアレイを伸長し、DTVのバラストに注水して展開を終えます。末端には通信ブイモジュールが接続され、有線での陸揚げを必要とせず、近傍の艦船等への通信が可能になっています。この4アレイ+通信ブイ構成の敷設の所要時間は4-8時間ほどとされています[27][28]

 

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ADSのコンセプト図[27]。敷設されたADSにより収集された音響情報は通信ブイを介して無線で送信される。

 

 しかしながら、ADSは要求が満たせないとして2006年にキャンセルされることになります。そこで次に開発が進められるのが2006年に始まったDeployable Autonomous Distributed System (DADS)ですが、これも2009年に打ち切られ、さらに開発されるのがDistributed Netted System (DNS)です。これは単に音響監視システムだけではなく海中通信ノードとして機能させるものであり、シンガポールと共同で海中音響通信技術の実証も行っています[29]

 

 

DSS、そしてAMASS

 さて、固定センサの開発史をさっとなぞりましたが、最後に現在進められているプロジェクトの一部を紹介します。DSS (Deployable Surveillance System)は従来の固定式・移動式監視システムに加えて柔軟かつ対応的に戦域対潜戦 (TASW; Theatre Anti-Submarine Warfare)指揮官に広域監視を提供する広範なプロジェクトです[30]。Increment 1-3に細分され、DSS Increment 1はDeep Water Passive (DSS-DWP), Increment 2はDeep Water Active (DSS-DWA), Increment 3はMobile Passive/Active System (DSS-MPAS)と対応します。AMASSプログラムはPMS 485のDSS-MPASへ対応するプログラムです。AMASSは深海域における新たな脅威となる潜水艦の長距離探知を目的とするアクティブシステムで、以下の5点を満たすよう要求されています。

  • 輸送コンテナからの展開
  • ブイからの大口径ソナーアレイの自動展開
  • 長時間の動作と位置の維持による持続的なプレゼンス
  • ソナー性能の劣化を防ぐため、アレイ変形の最小化を図る
  • トータルコストはaffordable (無理のない価格)であること

 なおQuestions Received After Industry DayでJHU/APLのブイ内信号処理アルゴリズム技術に触れており、ブイ内でビームフォーミング処理まで行って(おそらく無線で)送信する想定である可能性が考えられます。

 

 

監視システムとASW部隊の関係性の変化とこれから

 当初はIUSSの探知情報を一方的にASW部隊へ提供するだけでしたが、その関係も徐々に変化してきました。今日までの長い試行錯誤の中で、例えば水上部隊の探知情報に基づいてIUSS資産の解析を行うといった運用方法も生み出されたといいます[20]。また、特に近年の監視装備はASW部隊が直接アクセスできる、より距離の近いものになっているという記述が多く見受けられます。

 

 このような監視資産は非常に機密性が高く漏れ出てくる話は少ない面があります。しかし無人機(UUV/AUV)による海中ネットワークの構築や、あるいはASWも現実味を帯びる中で、監視システムの担う役割は非常に興味深いものです。

 

 

参考文献

[1] 防衛省令和4年度予算案 防衛力強化加速パッケージ (https://www.mod.go.jp/j/yosan/yosan_gaiyo/2022/yosan_20211224.pdf), 2021/12/30

[2] 中期防別表装備品の単価について (https://www.mod.go.jp/j/approach/agenda/guideline/pdf/soubi_tanka.pdf), 2021/12/30

[3] Navy TAGOS(X) Ocean Surveillance Shipbuilding Program: Background and Issues for Congress (https://crsreports.congress.gov/product/pdf/IF/IF11838), 2021/12/30

[4] 海上自衛隊50年史

[5] 昭和63(1988)年度版防衛白書 (http://www.clearing.mod.go.jp/hakusho_data/1988/w1988_03.html), 2021/12/30

[6] IUSS (https://www.csp.navy.mil/cus/About-IUSS/)

[7] 第113回国会 参議院 内閣委員会 第7号 昭和63年10月20日 (https://kokkai.ndl.go.jp/#/detail?minId=111314889X00719881020), 2021/12/30

[8] FIXED SONAR SYSTEMS: THE HISTORY AND FUTURE OF THE UNDEWATER SILENT SENTINEL (https://nps.edu/documents/103449515/0/HOWARDAPR2011.pdf/), 2021/12/30

[9] Department of Defense Fiscal Year (FY) 2022 Budget Estimates, Shipbuilding and Conversion, Navy (https://www.secnav.navy.mil/fmc/fmb/Pages/Fiscal-Year-2022.aspx), 2022/02/20

[10] Department of Defense Fiscal Year (FY) 1998/1999 Budget Estimates, Other Procurement, Navy (https://www.secnav.navy.mil/fmc/fmb/Pages/Fiscal-Year-1998.aspx), 2022/02/20

[11] Undersea Surveillance: Navy Continues to Build Ships Designed for Soviet Threat, Dec. 1992 (https://apps.dtic.mil/sti/citations/ADA258570), 2022/02/20

[12] The Emergence of Low-Frequency Active Acoustics as a Critical Antisubmarine Warfare Technology, Johns Hopkins APL Technical Digest, 13(1), 1992 (https://www.jhuapl.edu/Content/techdigest/pdf/V13-N01/13-01-Tyler.pdf), 2022/02/20

[13] Department of Defense Fiscal Year (FY) 2020 Budget Estimates, Other Procurement, Navy (https://www.secnav.navy.mil/fmc/fmb/Pages/Fiscal-Year-2020.aspx), 2022/02/20

[14] (https://govtribe.com/opportunity/federal-contract-opportunity/surveillance-towed-array-sensor-system-surtass-crew-n0003910r0042-1), 2021/06/04

[15] October 2017 Prior Approval Request: PE 0603382N Advanced Combat Systems Technology (http://web.archive.org/web/20210811082227/https://comptroller.defense.gov/Portals/45/Documents/execution/reprogramming/fy2018/prior1415s/18-01_PA_October_2017%20Request.pdf), 2021/12/30

[16] Undersea Surveillance welcomes new commanding officer, The Flagship (2020) Vol. 28, No. 2 (https://media-cdn.dvidshub.net/pubs/pdf_52066.pdf), 2021/12/30

[17] N3220521C2296 (2021) (https://sam.gov/opp/aa89641d4a3b4620aa55689806ba093f/view), 2021/12/30

[18] Team  Submarine FY20  Small  Business  Sustainment  Technology (SBST) Virtual  Showcase (2020) (https://www.ncms.org/wp-content/uploads/Team-SUB-SBST_Presentation_SEP2020_v2a.pdf), 2021/12/30

[19] Department of Defense Appropriations for 1995: Hearings Before a Subcommittee of the Committee on Appropriations, House of Representatives, One Hundred Third Congress, Second Session (https://play.google.com/store/books/details?id=H3ZJgOyVJl0C), 2021/12/30

[20] The Third Battle: Innovation in the U.S. Navy's Silent Cold War Struggle with Soviet Submarines, NAVAL WAR COLLEGE NEWPORT PAPERS 16 (2003) (https://digital-commons.usnwc.edu/newport-papers/38/), 2021/12/30

[21] The Next Generation in Underwater Acoustic Detection, AT&T TECHNICAL JOURNAL JULY/AUGUST 1995

[22] Department of Defense Appropriations for 1993: Hearings Before a Subcommittee of the Committee on Appropriations, House of Representatives, One Hundred Second Congress, Second Session (https://play.google.com/store/books/details?id=x0MBPSo3qCcC), 2021/12/30

[23] FDS-D Wet-end Survivability Post Test Analysis, Mar. 1995 (https://apps.dtic.mil/sti/citations/ADA293365), 2022/02/20

[24] Google Maps (https://www.google.co.jp/maps/), 2022/02/20

[25] Force 2001: A Program Guide to the U.S. Navy (https://play.google.com/store/books/details?id=s5eSDR5wqekC), 2021/12/30

[26] NRaD Command History Calendar Year 1996 (https://apps.dtic.mil/sti/pdfs/ADA329236.pdf), 2021/12/30

[27] Director, Operational Test and Evaluation FY 2005 Annual Report (https://www.dote.osd.mil/Portals/97/pub/reports/FY2005/other/FY05AnnualRpt.pdf?ver=2019-11-07-163844-567), 2021/12/30

[28] Semi-Autonomous Dispenser Transport Vehicle for Undersea Sensors System Integration Test Results and Lessons Learned (https://ndiastorage.blob.core.usgovcloudapi.net/ndia/2008/test/WEDNESDAY/WedH2/Reinagel.pdf), 2021/12/30

[29] Maritime In Situ Sensing Inter-Operable Networks (MISSION) (https://www.onr.navy.mil/reports/FY13/oarice.pdf), 2021/12/30

[30] N00014-20-S-SN02 (2020) (https://sam.gov/opp/cf30bc08155c4dc0a3336ec8c7feb922/view), 2021/12/30

 

更新履歴

2022. 02. 20 加筆修正・再構成