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米海軍の将来X帯レーダーFXRプログラム

 Future X-band Radar: FXRプログラムは将来的にAN/SPQ-9Bを代替するX帯多機能レーダーに関するプログラムです。今回は米海軍の現在のX帯レーダーからFXRの目指す将来のX帯レーダーの在り方への変化をまとめます。

 

現在のX帯レーダー

 米海軍が(特に水上戦闘艦で)運用しているX帯レーダーとして、主な用途には航海レーダー、対水上(低空)レーダー、そしてミサイルのイルミネーターが挙げられます。

 現在、対水上レーダ―として既存艦へのバックフィットも含めて配備が進みつつあるのがAN/SPQ-9Bです。これは空母からミサイル駆逐艦まで多くの艦にバックフィットが進められ、新造艦への搭載も行われています。海上自衛隊のミサイル護衛艦への搭載でも有名ですね。一方で、米海軍ではもう一つ対水上レーダ―の開発を行っており、AN/SPS-73(V)18と番号を振られています。これはNext Generation Surface Search Radar: NGSSRと呼ばれ、従来の対水上レーダ―SPS-67や航海レーダーSPS-73あるいはBridgemaster Eを置き換えるものとされています[1]。ここで注意が必要なのはSPQ-9Bの置き換えは述べられておらず、すなわちこれら2種はSWaP-C (Size, Weight, Power, and Cost またはCooling, あるいは両方含めてSWaP-C2)の観点から住み分けることになるだろうということです。例えば現在のArleigh Burke級ミサイル駆逐艦にはSPQ-9Bが新造時から搭載されていますが、Constellation級ミサイルフリゲートはSPQ-9BではなくNGSSRを装備するものとされています[2]

 さて、米海軍はミサイル巡洋艦ミサイル駆逐艦のRFセミアクティブ誘導ミサイルを目標に誘導するためのイルミネーターとしてSPG-62を長く用いていました。これは目標にRFを照射し、その反射波をミサイルのシーカーが探知して目標へ向かうものです。

 ところでFXRのようなS帯MFRと組み合わせる前提のXバンドフェーズドアレイレーダーがこれまで構想されなかったかというと、そんなことはありません。SPY-3はSPY-4とデュアルバンドレーダーを構成することを構想されていましたし、AMDR-XとしてAMDR-S (現在のSPY-6)とともにミサイル駆逐艦に搭載する構想の3面フェーズドアレイレーダーの計画がありました。今回取り上げるFXRはこのAMDR-Xに近い立ち位置と言えるでしょう。

 

AN/SPQ-9B



将来の水上戦闘艦のX帯利用

 ここで将来の水上戦闘艦が何のためにX帯を利用することになるのか、という考察が必要になってくるでしょう。現在はSHF通信の他に、上記のレーダー/イルミネーターとしての利用、電子戦領域の利用が主なものとして考えられます。このように多様なシステムで利用されるにあたって、電子防護 Electronic Protection: EPの概念は非常に重要なものになります(割愛)。搭載する機器の障害を防止するために、一元的なシミュレーションに基づく配置設計や運用が求められ、これらは別のプログラムでも米海軍が進めています。この一部として、単一のアレイアンテナでレーダーや通信等複数の機能を運用する試験も行われています。

 ではFXRも複数の機能を統合することになるのでしょうか?特に多様な大型艦を保有する米海軍にとってここで重要なのは、複数種の統合による運用機器、あるいは運用時の制約の整理と、艦種による要求性能・機能の過不足の発生のトレードオフでしょう。X帯レーダーひとつ取っても対水上捜索、水平線捜索、潜望鏡探知、あるいは比較的近距離の多機能レーダーとして用いるのか、さて探知した目標のトラックデータは砲の照準に用いるのか、ミサイルの照準に用いるのか、ではイルミネーションまでできた方がいいのかといった点は、搭載する大型艦がミサイル駆逐艦なのか揚陸艦なのか空母なのか艦種によって異なってくるでしょう。

 幸い、この点では米海軍はある程度の方針を持っており、それは大型艦の対空レーダーを古くはSPS-48、そして今度はSPY-6で統一する方針であることです。米海軍はレーダーの整理を進め、前述のSPS-73(V)18も対水上レーダ―を含めて航海レーダーを統合する役割を担うことになります。特にSPY-3はイルミネーションや電子攻撃を含めた上記のほぼすべての機能を持たせることを目標に開発されました。

 ところで、ミサイルの誘導においてもX帯の利用は重要であり、また他国に注視される領域でもあったようです。すなわちミサイルの誘導方式によるイルミネーターの利用はもちろん、中間誘導におけるX帯リンクを介したコマンドの存在です。一般的にイージスシステムを搭載した駆逐艦もしくは巡洋艦SPY-1からS帯のリンクを介してミサイルにコマンドを送信するものと言われていましたが、実際のところSM-2の誘導装置はS/X帯それぞれの受信装置を持つようです[3]。ここで気になるのが、同時対処数に影響してくるのか、という点です。

 最近、米海軍の運用する艦対空ミサイルにアクティブレーダー誘導のものが増えてきています。長距離はSM-6、中距離はSM-2 Block IIIC、短距離はESSM Block 2と一通り揃うことになります。これらは艦からイルミネーターで目標に照射する必要がないので、中間誘導の上限が同時対処数を主に制限する要素になってくるでしょう。

 さて、もしSPQ-9Bが中間誘導のコマンドを送信できたらどうでしょう。従来SPY-1の中間誘導に律速されると考えられていた同時対処数が、従来の艦もSPQ-9B搭載改修で大幅に増えている可能性が出てきます。(もっとも、SPY-6が今後新造艦に搭載されていき、同時に既存艦へのバックフィットも行われることになる計画なのでそれで変わる話ではあります。ただ、水上戦闘艦のSPQ-9B搭載改修は既に急速に進みつつあります。)直接的なこの答えは否、ということになりそうですが、FXRの実用化が成れば、この点も変わってきそうです。

 

 

FXRプログラム

 これだけ前置きを重ねて拍子抜けかもしれませんが、FXRプログラムは現在の段階としては特定の装備品を開発するというよりも、将来のX帯レーダーのための総合的な研究を行っています。すなわち関連技術の開発や、装備品として要求性能を決定する際のトレードオフに関する知見を収集することを当面の目的としているようです[4]。プログラムのモチベーションとしては、AMDRに対をなす、現在および将来的な脅威に対応できる先進的なX帯レーダーが存在していないことにあります[5]。AMDRには当初は新規開発のX帯レーダーAMDR-Xを開発する計画でしたが、FY2013からは既存のX帯レーダーを用いるものと計画は変更され[6]、その位置にはSPQ-9Bが収まりました。

 現在はNSWC DahlgrenにX帯レーダーの試験機を設置して試験を進めています[7]。40フィート(≒12 m)の足場に航空機用アンテナを転用したX帯レーダーを設置して、オープンアーキテクチャのレーダーシステムを構築し評価を行っているといいます。

 

NSWC DahlgrenのFXRプログラムプロトタイプ[8] (VIRIN: 210906-N-DE005-001)

 

 研究が順調に進めば将来的には従来よりSPQ-9Bが担っている水上捜索、水平線捜索、潜望鏡探知識別を担うレーダーシステムを装備化することになります[4]。さらには "dedicated tracking" と表記される動作(捜索中追尾のような動作?)やミサイルとの通信、先進的な電子防護といった改善がなされる計画です。さらに、複数の偏波を利用することやサブアレイまたはエレメントレベルのデジタルビームフォーミングがオプションとして検討されており、このあたりは現在先進的なレーダーとして研究開発される典型的な特徴と言えるでしょう。搭載対象は複数艦級が想定されており、新規建造艦だけでなく既存艦へのバックフィットも考慮されます。

 高度のない目標を探知するレーダーであることからアンテナはマストの特に高い位置への設置が望ましいものと設定され、すなわち艦載アンテナではあるものの、特にSWAP-Cの観点からの要求は厳しいものになると思われます。この点についてはNSWC DahlgrenのDarham氏もFXRに関するインタビューでたびたび言及しています[7]

 

 

FXRとDDG(X)

 最後にすこし米海軍DDG(X)との関係についてまとめてみたいと思います。DDG(X)は将来的にFXRを搭載するコンセプト案のひとつの絵がSNA2022で公開されており[9]、これについては以前エントリにしました。重複する部分はあると思いますが。

SNA2022でコンセプト案の一つとして公開されたDDG(X)のポンチ絵

orca-oruka.hatenablog.com

 

 さて、DDG(X)では将来的にFXRの搭載が考慮されるようです。これはAN/SPQ-9Bの更新という計画からして順当でしょう。ここで気になるのが、SNA2022で公開されたポンチ絵には、イルミネーション機能は省くものとわざわざ記されています。これはどのようなことを意味するのでしょうか?現状では推測するしかありませんが、例えば(1)FXRの段階的な開発のうち、イルミネーション機能の実装前に戦闘システムへの接続と艦艇への搭載を行う (2)SPG-62を前提とした戦闘システムの変更が望ましくない (3)FXRのイルミネーション機能は本来限定的で、例えば駆逐艦巡洋艦フリゲート等を除いた、対空ミサイルの限定的な運用に限られる艦艇での利用を念頭に置いたものである可能性などが考えられます。

 一方でFXRの実現が期待されるX帯ミサイル通信はS帯MFRの捜索追尾リソースを維持した上で同時誘導数の増加が期待できる点で、アクティブ誘導ミサイルの運用が増加するであろう将来のミサイル駆逐艦に適している可能性があります。また複数の偏波が運用できるようになった場合、低RCS目標の探知に利点が生じる可能性が考えられます。明らかでない部分が多いものの、将来の水上戦闘艦でどのような役割が期待されるかについては非常に興味深い部分です。

 

 

 

 以上、FXRについて現状の資料と関係する部分について軽くまとめました。まだ明らかになっていない部分が多いですが、米海軍艦艇の今後のRFセンシングで大きな役割を担う可能性のあるプログラムです。注目してみると面白いかもしれません。

 

資料

[1] NAVSEA, NSWC Dahlgren Division Announces Second-Quarter 2022 PEO IWS Awards, June 24, 2022 

https://www.navsea.navy.mil/Media/News/SavedNewsModule/Article/3073539/

[2] FY 2023 Shipbuilding and Conversion, Navy, Budget Activity 2, 2022 

https://www.secnav.navy.mil/fmc/fmb/Documents/23pres/SCN_Book.pdf

[3] Clifton E. Cole Jr., Missile Communication Links, APL Tech. Dig. 28(4) 2010 

https://www.jhuapl.edu/Content/techdigest/pdf/V28-N04/28-04-Cole.pdf

[4] ONR, Special Notice N00014-17-SN-0006

[5] FY 2022 Research, Development, Test & Evaluation, Defense-Wide, Budget Activity 3, 2021 

https://comptroller.defense.gov/Portals/45/Documents/defbudget/fy2022/budget_justification/pdfs/03_RDT_and_E/RDTE_Vol3_OSD_RDTE_PB22_Justification_Book.pdf

[6]  FY 2013 Research, Development, Test & Evaluation, Navy, Budget Activity 5, 2012 

https://www.secnav.navy.mil/fmc/fmb/Documents/13pres/RDTEN_BA5_Book.pdf

[7] Diana Stefko, Caleb Gardner, and Elliot Carter, Dahlgren Division Leads with Innovation, Future Force 8(1) 2022 

https://www.nre.navy.mil/media/document/future-force-vol-8-no-1-2022

[8] VIRIN: 210906-N-DE005-001 

https://www.dvidshub.net/image/7149047/

[9] David Hart, SNA 2022 presentation slide, DDG Program 

https://www.navsea.navy.mil/Portals/103/Documents/Exhibits/SNA2022/SNA2022-CAPTDavidHart-DDGX-Program.pdf