OSINFO

OSINTに昇華し損なったOpen Source Informationです

現用米海軍主要艦のマストトップ方探空中線

 現在、米海軍の主要艦で用いられているマストトップDF(Direction Finding: 方向探知、方探)空中線について、備忘録程度に簡単にまとめる。

 

アーレイ・バークミサイル駆逐艦の搭載例

 バーク級を例にとるとわかりやすいのでここから始めるが、本級は当初マスト最上部のIFFアンテナおよびLAMPSデータリンクアンテナより上にはAN/URN-25 TACANで用いるAS-3240とUHF通信に用いられるAS-1735が置かれていた。

 

f:id:orca_oruka:20210404224941p:plain

AS-3240 (USS Mustin, DDG 89)

 

 改修および新造時からの変更でのちにここにはDFアンテナ(一部を除く)およびLink 16用アンテナが装備されるようになった。現在ではこの位置にDFアンテナを装備しない艦でもプリン型(ババロア型とも)のJTIDSアンテナのAS-4127Aを装備している。AS-4127Aの後継となるAS-4775とみられる艦も数隻確認できる。

 

f:id:orca_oruka:20210404224048p:plain

AS-4127A (USS Mustin, DDG 89)

 

f:id:orca_oruka:20210404224239p:plain

AS-4775 (USS Monterey, CG 61, VIRIN: 201006-N-VG565-0001)

 

 この種のDFアンテナとしては、バーク級に搭載されたものとしては少なくとも4種類、型番としてはAS-3506、AS-420、AS-4692、AS-4773が確認できている。それぞれ形状・方式は異なるが、いずれもTACANアンテナのすぐ下に設置される。AS-4773はマスト中段に搭載されることもある(USS Paul Hamilton, DDG 60)。

 

f:id:orca_oruka:20210404213624p:plain

AS-3506 (USS Wasp, LHD 1)

 

f:id:orca_oruka:20210404203819p:plain

AS-420 (USS Barry, DDG 52, VIRIN: 210321-N-YS413-1292)

 

f:id:orca_oruka:20210404203206p:plain

AS-4692 (USS Mustin, DDG 89)

 

f:id:orca_oruka:20210404211226p:plain

AS-4773 (USS Fitzgerald, DDG 62, VIRIN: 200203-F-RN211-1065)


  AS-3506、AS-420については米SwRI (Southwest Research Institute)の設計として『Signal Exploitaion & Geolocation Systems』で紹介されている。

 

f:id:orca_oruka:20210404212759p:plain

AS-3506 (SwRI, "Signal Exploitaion & Geolocation Systems")

 

f:id:orca_oruka:20210404212957p:plain

AS-420 (SwRI, "Signal Exploitaion & Geolocation Systems")

 

 『Signal Exploitaion & Geolocation Systems』では、このようなDFアンテナを用いるシステムとして、AN/SRS-1 Combat DF、AN/SRD-503および504、AN/SSQ-120、Privateer、COBLUを例として示している。

 

 AS-4692は素子全体がレドームに覆われているためわかりにくいが、テーパスロットアンテナを16個並べた構造になっている。内部の構造はSea-Air-Space 2017で展示された。写真のオレンジ色の模型がAS-4692を半分に割った構造を模しているものと思われる。

 

f:id:orca_oruka:20210404220750p:plain

推定AS-4692模型 (VIRIN: 170403-N-RP435-034)

  AS-4692は少なくともSSEE Increment E ECP Group III、SSEE Increment F、SSEE Modificationsで用いられていることは確認できた。

 

 最近、改修で新しく装備が始まっているのがAS-4773である。現在USS Arleigh Burke (DDG 51)、USS Fitzgerald (DDG 62)、USS Milius (DDG 69)、USS Chancellorsville (CG 62)の4隻への搭載が確認できている。CSA (Compact Surface Antenna)と呼ばれている例も確認できる。

 

f:id:orca_oruka:20210404222229p:plain

AS-4773 (米海軍)

 

 これらのDDGへの搭載については傾向が見えてくる。すなわち、AS-420はフライトIに搭載され、これは現在AS-4773に換装されつつある。一方でUSS Paul HamiltonはAS-420を搭載しておらず新たにAS-4773を搭載し、またUSS John Paul Jones (DDG 53)はいずれも搭載していないといった例があることにも注意が必要である。フライトII/IIAでは就役当初から基本的にAS-3506を搭載してきたが、これらも次第にAS-4692に換装されつつあり、また近年では就役当初からAS-4692を搭載している。

 

他艦級の搭載例

 タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦は チャンセラーズビルのAS-4773搭載によってこの4種類のすべての搭載例を持つことになった。

 

 ワスプ級強襲揚陸艦はAS-3506を、アメリカ級強襲揚陸艦はAS-4692を装備している。

 

 サン・アントニオ級ドック型輸送揚陸艦はAS-4692と、ステルス化AS-420と思われるアンテナの搭載例がある。後者についてはそれと思しきアンテナが前述の『Signal Exploitaion & Geolocation Systems』に掲載されている。素子は同様の構成に見えるが、円盤状だった部分を直線的な造形に改めたり縦長の円筒形だった部分も樽型に改めるなどRCS低減策を施していることが窺える。

 

f:id:orca_oruka:20210404223124p:plain

RCS低減AS-420? (SwRI, "Signal Exploitaion & Geolocation Systems")

 

 コンステレーション級ミサイルフリゲート/FFG(X)についてはモデルによって変遷があり、最終的にどうなるのかはっきりしない。

 

[2021/6/7 追記]

 USS Hershel "Woody" Williams (ESB 4)へのAS-4773の搭載も確認できた。同艦は2020年3月に就役し、欧州・アフリカ方面で精力的に多国間演習等を行っている。

f:id:orca_oruka:20210607225918p:plain

AS-4773 (USS Hershel "Woody" Williams, ESB 4, 米海軍)

 

おわりに

 米軍艦艇のSIGINT収集能力、Information Operation能力の方面を直接に調査するのが近道になりそうですが、取り敢えず空中線編その1ということでざっとまとめました。改修に気付く一助になるかもしれないしならないかもしれません。例えば横須賀配備艦でもマスティンやラファエルペラルタはAS-4692、ジョン・S・マケインはAS-420など、外見上の目立つ相違点になっていたり眺めている分にも興味深いところです。以上、需要が行方不明な記事でした。

 

 

2021/6/7 追記