OSINFO

OSINTに昇華し損なったOpen Source Informationです

米海兵隊の対UAS装備 MADIS FoS

 米海軍では近年、小型無人機の運用、あるいは小型無人機への対抗手段(C-UAS: counter-unmanned aircraft system)の保有のために新しい装備品の導入を進めています。特に沿岸域におけるC-UASの一環として行われているのが、米海兵隊のC-UAS装備の艦上運用です。

 2019年にはホルムズ海峡にてUSS Boxer (LHD 4)艦上のLMADISがイランのUASを撃墜したことが話題になりました。米軍はこのときに限らず、通峡時の警戒にLMADISを運用していることが知られています(例えば 2021年のUSS Iwo Jima (LHD 7)のジブラルタル海峡通過時 )。

USS Iwo Jima (LHD 7)飛行甲板上のLMADIS (右奥) 210522-M-TU241-1041

 米海軍および米海兵隊は特に2010年代、対テロ戦において無線遠隔管制式の即席爆発装置(IED: Improvised Explosive Device)への対抗手段として車両搭載式または個人可搬式の装置を精力的に開発してきました。この技術を基盤として、現在用いられているC-UAS装備装備に展開されました。

 今回は海兵隊のC-UAS装備であるMADIS FoS (Marine Air Defense Integrated System Family of Systems)について整理します。

 

 MADIS FoSは固定翼機および回転翼機、そしてグループ1-3のUASに対抗するSHORAD能力を提供することを目的としており、MADISとL-MADIS (Light-MADIS)、I-CsUAS (Installations Counter-small Unmanned Aircraft Systems)からなります 1), 2)。MADISとLMADISに注目したいのでI-CsUASはごく軽くなぞるだけに留めます。

 I-CsUASは前方作戦基地(FOB: Forward Operatoin Base)を防御するための、機動的な運用を要さないC-UASシステムの調達プログラムです。グループ1-2のUASを対象としており、探知から交戦までを行う、購入可能な既存のシステムを求めています 3)

 ではMADISとLMADISの共通点・相違点について軽く概観するところから始めましょう。いずれも車両搭載型C-UASシステムですが、それぞれJLTVとULTV (ポラリスMRZRと呼んだ方が通りが良い気はしている)をプラットフォームとしていることからシステムの規模は異なります。前者はUASのハードキルを目的とした火器を統合していますが、後者にはありません。センサー(レーダー、EO等)は同じものを使用している一方で、いずれも小改良を加えつつあるため、ややこしくなってきています。

MADISとLMADISの車両

 MADISは2020年度予算ではIncrement 1, 2, 3と整理されていましたが 4)、2022年度予算で計上されているのはIncrement 1であり、これがBlock 1と、致死性の向上を目指すBlock 2に分割されています。

 MADISの車両はJLTVであり、Mk 1とMk 2の2種類が存在します。それぞれStinger variantとCUAS variantと呼ばれており、これまでに確認されている30 mm機関砲とスティンガー対空ミサイルを装備した大型砲塔タイプとミニガンを搭載した小型RWSタイプを指しているのでしょう。すなわち上掲の写真左はMADIS Mk 2にあたります。

 ところがDVIDSをさまよっていると第三の車両の存在に気がつきます。この車両はMk 2によく似たRWSのターレットを持ち、同じ構成の照準光学系を持っているようです。一方で車両後部のレーダーは無く、EOセンサーも4つに光学窓が分割されたタイプに変更されています。また、レーダーらしきコンポーネントを後部の荷台部分に見つけることができます。

上掲のMADISと似て非なるセンサーを搭載したJLTV。 VIRIN: 210612-M-DY697-1006

 同様にLMADISについて見ていくと、Incrementによる分類はなされていませんが、同様にMk 1とMk 2という2種類の車両を調達しています。Mk 1は外部のプラットフォームとの通信を担当し、Mk 2が目標の探知から交戦までを担います。LMADISを写した広報写真ではレーダーとEOセンサが目立つ早期警戒/電子戦型のULTV (つまりMk 2)とそれらのない指揮管制型のULTV (Mk 1)が1両ずつの組で動いている様子が確認できます。

 そしてMADIS同様に、丸ではなく長方形のレーダーと異なるEOセンサーを搭載している車両の存在に気がつきます。この車両のEOセンサーを見ると、やはり4つに分割された光学窓があるタイプです。

LMADIS Mk 2のセンサーに見る違い

 では、これらの正体は何なのでしょうか?

 答えは公式発表から容易に見つけることができます。米海兵隊はLMADISのテストを広報する記事(合わせて公開された写真には、上図右の構成のLMADIS Mk 2が写っている)でコンポーネントについて言及しています。曰く、EOセンサーとしてCM262U、レーダーにはRPS-42、ESにSkyview MP、そしてEAにModi II、通信にAN/PRC-158だといいます。ただしこの列挙は幾分注意が必要でしょう。レーダーを供給するRADA Technologiesのサイトを確認すると、RPS-42は上図右のアレイではなく左の丸いアレイを使い、右のアレイではRPS-620/RPS-62に対応すると書かれています。

 ここで確認しておきたいのがレーダーとEOセンサーです。当初見られていたMADIS/LMADISはRADA TechnologiesのMHRレーダーを4面一組として半球状の領域をカバーしていました。またEOセンサーとしてはCACI InternationalのCM202Uを装備しています。しかし、これまでに少数ではあるもののRADA TechnologiesのeCHRとCACI InternationalのCM262Uと思われるセンサーを代わりに搭載した車両が公開されています。実際にCM202UとCM262Uは保守の調達情報からも両方の採用が確認できます 5)

MADIS FoSで用いられるセンサー例

 続いてこれらのメーカー資料を参照します。CM202U 6)とCM262U 7)はいずれもC-UAS用途を想定したもので、前者は可視光および中波長赤外線(MWIR)に対応したセンサーを有します。夜間における探知を含め、MWIRは主要な役割を果たしていることでしょう。後者は加えて短波長赤外線(SWIR)とレーザーレンジファインダーを有しているそうです。CM262のSWIRセンサーは人を約12 km、車両であれば約30 kmの長距離における探知を期待できると主張しています。

 MHR 8)とeCHR 9)はいずれも4面で半球状の範囲をカバーするAESAパルスドップラーレーダーであり、車両や船舶に搭載して、あるいは脚に固定して運用されます。いずれも他に冷却システムを付属させる必要が無いことから、このような小型車両への搭載に向いています。米軍では他にも、米陸軍のM-SHORADや米沿岸警備隊センチネル級カッターにも搭載されています。

 他の搭載品として、Skyview MPが挙げられています。Skyview MPはRF制御のUASの通信を検出することで、UASの探知と識別を行うVerus Technologies社の装置です。このアンテナは下図の緑楕円中に示した灰色のアンテナと推測されます。と言うのも米軍の購入は確認されており、米海兵隊は以前Skyview MP V2を隊員が扱っている様子を公開しています(リンク)。

LMADIS Mk 2の後方 VIRIN: 230214-M-DQ946-1008

 Modi IIはSierra Nevada社の可搬型のC-UASジャマーです。同社のIED妨害装置はAN/PLT-5やAN/PLQ-9として米軍に採用されています。Modi IIの外見については未詳ですが、 DAUのブログ に出所不詳のModi IIとされる装備の写真があります。つまり、Skyviewによって既知となった通信を妨害し、敵オペレーターとの通信を困難にすることを想定したもの、と考えるのが自然でしょうか。

 また、車両の後端に立っている目立つアンテナがPRC-158用のアンテナでしょう(RF-3143TB-AT32X ?)。

 (力尽きたのでこのあたりで終わりとして、)このあたりを確認しておけば、主要コンポーネントを変更した際にある程度推測ができるでしょうか。まだまだ変化の続く、興味深い装備品になりそうです。では今回のDVIDS漁りはこのあたりで。

 

 

資料

1) DOD FY23 Budget Estimate, Research, Development, Test & Evaluation, Navy, 2022 

2) DOD FY23 Budget Estimate, Procurement, Marine Corps, 2022 

3) Installation Counter Small Unmanned Aircraft Systems (I-CsUAS), Notice ID: M67854-23-I-0001, 2022 https://sam.gov/opp/c33f51666cc3473991ec58a55a05e431/view

4) DOD FY20 Budget Estimate, Procurement, Marine Corps, 2019

5) Optic Sustainment in Support of PM Ground Based Air Defense (PM GBAD), Notice ID: M67854-22-R-0009, 2022 https://sam.gov/opp/fd8fe7a56a9d4e86bbff03f4376f600c/view

6) CM202U, CACI International Inc. 2021 https://www.caci.com/sites/default/files/2021-11/F588_2110_AVT_CM202U.pdf

7) CM262U, CACI International Inc. 2022 https://www.caci.com/sites/default/files/2022-06/F576_2107_AVT_CM262_KC_0610b_1.pdf

8) MHR, RADA Technologies, https://www.rada.com/products/mhr

9) eCHR, RADA Technlogies, 2020 https://radausa.com/wp-content/uploads/2021/01/aCHR_eCHR_brochure_Dec2020.pdf